気づかなかった思い
「ジェイ、結婚するの?」
「いや、相手がいないのに結婚は出来ないよ」
「だから、相手を」
「あなた、ジェイの気持ちを考えてあげましょう」
「だがな、ジェイドもいい年だし、うちの娘をどうかと夜会では言われるし、申し込みの手紙もたくさんで返事が大変なんだよ」
ハウエル公爵は、さっきまでせわしなく動かしていたナイフを止め、大きなため息をついている。
「さすがジェイね。もてることは知っていたけれど」
「知ってた?」
「気づいてないの? 近衛隊の中の女性騎士の中にもジェイを狙っている方はたくさんいるのよ。告白されたことはあるでしょ?」
「まあ、それはあるけど」
その答えに目を輝かせた伯母様は、すぐに質問した。
「その中に心にとまった人はいなかったの?」
「いない」
(話があると呼ばれたのは、ジェイの婚約者がまだいないことに、一言いいたかったのね)
静まりかえった夕食の席は、食器だけがおしゃべりするように、いたるところで鳴っている。
「せっかくの夕食の席なのに……この話はやめましょう。ジェイドにもいつかご縁があるでしょう……きっと」
「……もう少し、見守っていて下さい」
「ああ、解った」
両目を閉じ、納得したように返事をした後、ハウエル公爵は満喫するように次から次へと口の中へ料理を運んだ。気まずい空気は流れたけれど、その後はいつもより食事の時間が長くなるくらい話がつきず、そのせいで私はケーキをたくさんたいらげることになってしまう。
「ふう、お腹いっぱいになりました。美味しかった」
「たくさん食べたね、リリー」
みんなが笑顔で見つめてくるから、私も笑顔で返事を返す。
「リリー、お腹いっぱいなら少し散歩しない?」
「いいわね、行きましょう」
二人で行ってらっしゃいと言った伯母様の手には、なみなみとワインが入ったグラスがあり、これから食後の晩酌に入るように見えたから、お酒も強いなと思いながらジェイと二人で外へと向かった。
「中庭にする? それとも外庭?」
「外庭のガゼボまで歩こう。今日は明るいからね」
「うわーほんとだ。月明かりで明るいね。お花の色も解るくらい、とっても綺麗」
夜道は月明かりに照らされ歩きやすかったけれど、転んでは危ないからとジェイが手を引いてくれる。
「ジェイ、見て。白バラに夜露がついて光ってる」
「月明かりが当たって綺麗だね」
「ええそうね」
庭の花々に宝石がついたように夜露が光り、あまりの美しさに感嘆の声をあげながら歩いた。夜の庭も綺麗だねと言ったジェイも、花々を見つめている。
「少し座って話そうか」
おしゃべりしながらガゼボから見る庭園も素敵だろうと思い、頷いて椅子に座った。
「ここからの眺めも素敵ね。夜の庭は初めて来たわ」
「気に入った?」
「とっても」
「ここは好き?」
「お花がたくさんで好きよ」
「庭もだけどハウエル邸は好き?」
意図もしない事を聞かれ思わず庭への目線をジェイに向ける。
「……自分の家だと思ってるくらい好き。両親から離れている今は、心のより所になってる」
真剣な眼差しに答えるのが遅くなった。
「私と一緒にハウエル邸を盛り立てていかないか?」
「ジェイと一緒に? それはどういう意味で捉えたらいいの?」
私が質問をしている最中、ジェイは立ち上がり目の前に跪いて、私を見る。
「リリア・ローウェルト嬢、私と結婚して下さい」
「私と! えっ私に求婚?……」
「返事は急いではいない。リリーの言いたいことも解っている」
「ジェイは私と結婚したいの?」
「小さくて可愛い女の子がこんなに素敵な女性になったんだ。普通に好意を抱くし、昔からリリーの事は好きだったよ。妻にするならリリーがいいなと思ったんだ。困った顔がリリーの気持ちを表しているね」
自分の素直な気持ちが表情に出ていたのか、ジェイがずっと見てくる。
「返事は待つよ。俺の気持ちを知って、これからは一人の男として意識して欲しいと思っているからね」
「考える時間をくれてありがとう、ジェイ」
微笑んで返事をしたジェイは、今日の仕事を片付けてくるよと言って騎士団の宿舎へと戻って行った。
夜の庭園をもう少し眺めたかった私は、ガゼボでジェイを見送り、思いもよらなかった気持ちを知り、真剣な表情のジェイを思い浮かべ庭園の中をゆっくりと歩く。
心の中の整理もしなければならないと思いながら……。




