諭されたのは任務より治療
微かに触れる感覚を感じ、目を開けると私を覗き込む女性がいた。医務局の制服を着た女性は目を見開き、嬉しそうに私に声をかけ部屋から走って出て行くのが見える。
「ここは……医務局かな。何があったんだっけ……あれっ右目が見えない」
見えない右目にそっと手を当てると包帯で塞がれ、頭の方からぐるぐる巻きにされているのが触りながら確認出来た。
「大怪我みたいで大げさだな……ふふっ」
しっかり巻かれた包帯に自分の元気な気持ちがあっていないからか可笑しくなり笑っていると、こちらに向かって来る駆け足の足音が聞こえてきた。
「この足音、ジェイかな」
勢いよく扉を開け、入ってきた人物に一瞬驚いていると、その人物の行動に再度驚く事になってしまう。
「リリー、良かった無事で、ほんとに」
「閣下、言葉がめちゃくちゃになって発せられています。正しくはローウェルト嬢、無事でほんとに良かったです」
「ははは、そうだな。支離滅裂になるくらい嬉しいってことだ」
「あの……これ……えっと」
「あっすまない。思わず抱きしめてしまった」
そっと私を離したレイモンドは、嬉しいのか照れているのか、はにかんだ様な顔を見せた。
「あの、それで陛下は?」
「リリー」
「ふぐっ……ジェイ」
「良かった、良かったよー。リリー何処が痛い? 大丈夫? お腹空いてない? 代わってあげたい。俺はどうすればいいんだ」
「とりあえず落ち着こうね、ジェイ。私は大丈夫だから」
私が宥めていると医務局の女性もやってきて怪我人になんてことをと注意され、大人しくなったジェイはしょんぼりしながら私を見ている。
「陛下はご無事ですか?」
「ああ、腕に少しかすり傷程度ですんだよ。リリーのおかげだ」
「そうですか、ご無事で良かったです。それにしても剣舞の時に爆発とは大きく出ましたね」
「騎士団で総力をあげて警戒していたのに、防げなかった」
「犯人はやはりワーバンですか?」
「だろうな」
「ワーバンで間違いはない。これを見てくれ。爆薬が包まれた紙なんだがワーバンが他国から輸入していた紙で水をはじく性質がある。今のところワーバンしか入手出来ない他国の紙なんだ。この紙で作っているからワーバンに間違いはない。大きく出たのは焦っているのかもしれない」
鋭い目つきで説明するレイモンドは、怒りが混じった雰囲気を誰よりも醸しだしていた。
「もうすぐ式典だというのに、このままでは安心して行えません」
「式典もそうだが、その前に行われる夜会もだ。数日間にわたって各国の来賓を招いての夜会は陛下もその都度お見えになる。どこで仕掛けてくるのか、解らない」
「その前に、我が国ギリニアで捕えたい」
「私も任務以外は街へ出てみます」
気合いも込めて大きな声で言った私をみんなが一斉に見る。
「リリーはダメ!」
「ローウェルト嬢はダメだ!」
「怪我人はダメです!」
「でも……」
「ローウェルト嬢、騎士なら解るはずだ。右目が使えない君は、足手纏いになる。仲間を思うなら身を引いて治療に専念するべきだ」
声は穏やかに聞こえるけれど怒っているように感じる。これ以上の我が儘は通せないなとみんなの顔つきから察した。
「解りました。治療に専念します」
私の一言を聞いたみんなは、励ましの言葉を言って医務局を後にして行った。
その日から毎日、誰かが私の様子を見に来ては元気づけたり、おしゃべりをして楽しませてくれて退屈な時間を減らしてくれる。
陛下がいらっしゃった時には、緊張した。
だって、室内がいつもと違った雰囲気になってしまったから。




