剣技会
突然、楽器の音色が控え室の中に入り込んできた。
剣技会を開始する合図だと解り、体が緊張で強張る。目を閉じて大きく息を吐きながら今までやってきたことを思い出し自分自身を勇気づけた。最後まで勝ち進めばイザベラ隊長と剣を交えることになる。
「勝ちたいな……勝たないとなぁ」
義務みたいな言い方になったのは、二日前にジェイに言われたからだ。
『俺は優勝する。リリーも優勝する。二人で優勝して母上の秘蔵のワインで祝杯だ』
満面の笑顔で言われたから弱音を吐けないなと思った。
弱音を吐いたら負けるかもしれないと気持ちを奮い立たせながら控え室で待っていると、一回戦を終えたジェイが応援に来た。
「一回戦勝ったよ。リリーも頑張って、自分を信じてね」
「ありがとう、ジェイ」
二人で話していると何故か周りの人達に見られているように感じ、見渡すと私達を意味ありげな視線で見ている。
「私達なんだか、見られてない? 休みの次の日くらいからいつも視線を感じるようになったんだけど」
「ああ、多分俺とリリーが朝帰りした事が噂になっているからじゃないかな」
「噂って……誤解されるような事じゃないと思うけど」
「噂はほっといていいよ。今は集中。そろそろリリーの順番がくるころじゃないかな」
その言葉どおり名前を呼ばれた私は会場へと向かった。
勝ち進むにつれて苦戦したところもあったけれど最後まで勝ちのこり、最終決戦はやはりイザベラ隊長だ。
自分の試合がくるまで控え室にいる今は、待機する時間が長く感じる。
時折聞こえる歓声でジェイの試合が気になるけれど、きっと勝って優勝だろう。
心を落ち着かせるために座って待っているとレイモンドが入ってきた。
「今、話せる?」
「ええ、大丈夫です」
「いよいよだね」
「はい」
「……その……」
「どうしたんですか? いつもの閣下らしく話して下さい」
「そうだな、今まで頑張ってきた姿を見てきた。だからきっと勝てるよ。君なら勝てる」
「応援ありがとうございます。閣下に向けた殺意を思い出してぶつかって行きます」
「やはりあれは殺意だったのか……」
二人とも目が合ったあとに吹き出し笑いになった。
「笑ったらなんだか緊張が解けました」
「そうか、良かった」
一際大きな歓声が聞こえ勝敗が決まったと思った私は、控え室から出て行こうとする。
「ローウェルト嬢、健闘を祈る」
私の背中に向けて、再度応援する言葉を言った笑顔のレイモンドを見たら「はい、精一杯頑張ります」と私も笑顔で答えていた。
一礼をしてから目の前のイザベラ隊長の顔を見ると、いつもどおりの余裕と気迫を感じて、今日も調子が良さそうだと解り、思いっきりぶつかる覚悟ができた。審判から「はじめ」と号令がかかり、会場中がピリついた雰囲気になる。私とイザベラ隊長の二人だけの空間の中で戦っているような感覚になり、耳に入るのは剣がぶつかる音だけになった。
(私、集中出来てる。きっと、勝てるわ)
二人の戦いは息を飲むほど白熱したものになり、誰もが言葉を発するのを忘れるくらいの技と技のぶつかり合いになっていた。
(みんなが私の練習に付き合ってくれた。だから、負けないわ)
何度ぶつかって行っても簡単にかわされ、防御されてしまう。
(攻撃が読まれているのね、それなら……)
レイモンドとの練習を思い出し、相手を翻弄するような動きを見せると、一瞬怯んだ様に見えた。いつもなら解らない少しの隙を見つけ、尽かさず切り込んで行く。
「そこまで」
二人の荒い息使いの中、周りの歓声が耳に入り勝敗がついたのだとわかる。
「リリア、おめでとう。よくやったな」
イザベラ隊長に握手され、抱きしめられながら背中を叩かれた。
「私……勝てました?」
「あははは、そうだよ。リリアの剣舞を楽しみにしている」
そう言って去って行くイザベラ隊長の背中を見ていると、大きな声のジェイが走り込んできた。
「リリー、おめでとう。もっと喜んで!」
笑顔のジェイに抱き上げられた私は、おもいっきり両手を挙げて笑う。
「最高の笑顔、可愛いー」
こんなにもたくさんのおめでとうを聞いたのは初めてのことで、みんなからの祝福に笑顔で答える。ふと遠くの方に目を向けるとカーラ伯母様の姿が見え、思わず大きく手を振りながら
「師匠、勝ちました」
と言うと、拳を高く上げて笑ってくれた。
さっきまでの笑顔がいつの間にかうれし泣きになっていたのか、レイモンドが近づいてきてそっとハンカチで頬を拭いてくれる。
「おめでとう、リリー」
「ありがとう、レイ」
優しく微笑んで言ってくれたレイモンドの気持ちに、私も素直な気持ちで答えた。




