勝負は心にもない殺意で
朝の静けさの中、訓練場からは剣を振る音だけが聞こえている。
独り、動きを止めることなく剣を振る。集中しているリリアは周りのものすべてを遮断していた。
「おはよう、今日も早いね」
一度剣を置き、汗を拭こうとすると声をかけられる。
「おはようございます、閣下」
「まだ上下素振りするのか?」
「はい、あともう少しします。その後に練習の相手をお願いできますか?」
微笑みながら返事をした閣下は、私の素振りを待ってくれるのか少し離れた所で剣を振り始めた。素振りの練習が終わると訓練場には、朝食前の練習をする人がちらほら現れ、各々剣を構えている。
「閣下、今から……きたっ」
聞き慣れた足音に身構え、回避しようとしているといつもとは違う行動をされ、また変な声を発してしまった。
「うぎゃっ」
「リリー、おはよう。今日も朝から偉いね。リリーは今日もとても可愛いね。二人で練習しようか、二人で」
「おはよう、ジェイ。飛び上がってからのハグはやめて。また変な声が出ちゃったじゃない」
「ごめんね、リリーが身構えていたからちょっとびっくりさせようと思ってね。びっくりした?」
「はいはい、びっくりしたわ。とりあえず離して。練習はじめましょう、三人で」
ちらっと閣下を見たジェイは、少し不服そうな顔をしてから私を離した。
「今日は一対二で戦ってみたいです」
「いいねぇ、閣下対リリーと俺でボコボコにするってことね」
嬉しそうに話すジェイの顔は、私からの提案で一瞬にしてかっこいい顔が台無しの気の抜けた表情を作った。
「私対閣下とジェイです。二人で私をボコボコにするつもりで、向かって来てください」
「それはきついと思う。二人で向かうなんて出来ない。君が怪我でもしたら大変だからね」
閣下に否定されたけれど、どうしても譲れない私はきつめの口調で訴える。
「嫌でもやってもらいます。ここまでしないと勝てないのです。イザベラ隊長はほんとに強いのです。お願いします」
さっと頭をさげてから二人の顔を見ると、眉が下がり私が嬉しくなる言葉を言ってくれる。
「しょうがないなぁ」
「仕方がない」
二人からの攻撃はやはりきつかった。
(さすがね、何度も負けてしまうわね)
「ちょっと休憩。どれだけ頑張れるの、リリーは」
「どれだけでも」
私の返事で目を大きく見開いたあと、さすがリリーと言って笑いながら休憩を取りに行った。
「閣下も休憩しますか?」
「いや、まだ出来るからもう少し付き合うよ」
「では、手加減なしの一対一で勝負です」
「いいだろう」
剣を交えるとレイモンドの強さが解る。隙もないし、私の攻撃も読まれている。
「剣の当たり強くないか? 殺意さえ感じる……」
「あらっそうなんですか? 気のせいですめばいいですね」
薄ら笑いを浮かべながら話し終わると同時に、強く剣を打ち込んだ。
二人の剣がぶつかるたびに、まるで会話しているような感覚になる。
楽しくて何度もぶつかって行く。
ひるんだ隙に間合いに入り、レイモンドの動きを止めると複雑な表情をしながら私に一言。
「ふぅ、恨まれることしたかな? 凄い殺意だった……」
「ふふっ、そう思っているならそれで。思い過ごしだと思っているならそれで」
「私が決めるのか」
「そう考えている人が決めて下さい。私はただ勝ちたいという思いだけで動いているので、私の心情としてはどちらも当てはまりません。ところで、まだ私の攻撃は先が読まれてしまいますか?」
「読むことができなくなってきたよ。相手を翻弄するような動きもできているし、だいぶ強くなったね」
「二人のおかげです。ありがとうございます」
「まだ練習する?」
「やめて朝食を食べに行きます」
「わかった、私も一緒にいいかな?」
「ええ」
前は気まずかったけれど今はそんなことはない。
剣の練習を一緒にするようになって、仲間だと思うと気まずいという思いは、ただ厄介なものになって、それに時間を割くのさえ勿体ないと考えた。それにたくさん話して剣技を学べるならその方が嬉しい。
「今度の休みは何か予定ある?」
「休みは伯母の家へ帰ります。ジェイと」
「……そうか」
今まで予定なんて聞かれたことはなかったから、どうしたんだろうとレイモンドの顔を見ると少し寂しそうだ。
「閣下は事件が解決するまで帰れませんね。お家に帰りたくなりましたか? 寂しそうに見えます」
「寂しいのはそれじゃない」
「ふふふっそうですか?」
「おーい、リリー。こっち、こっち」
「あっジェイが席を取ってくれてる。行きましょう、閣下」
「そうだな」
楽しく朝食がとれそうだ。
三人で語り合うテーブルには朝日が当たり、盛り付けられた料理と、湯気が立つ紅茶の見た目を絶品な食べ物だと教えてくれていた。




