二人の心強い仲間
「さあ、何処からでもきなさい」
何処からって言われてもまったく隙がない。
剣を構え、剣先に見えるイザベラ隊長は、余裕があるのか微笑しながら私の攻撃を待っている。
(日々の努力は無駄じゃないはず……)
向上心と誰よりも練習しているという自信を胸に秘め、真正面から剣を振りかざし向かって行く。激しい打ち合いと周りを圧倒する気迫から、訓練場にいる誰もが練習をやめ、二人を見ていた。
「まだまだ私には勝てないか」
イザベラ隊長の発した言葉は、もうすでに勝敗が決まったと言っているように聞こえる。
確かにそうだ。
剣先がすんでのところで私の体の前で止まっている。
「ありがとうございました」
「謹慎中も練習を怠ってはいなかったようですね」
「はい、剣筋を徹底的に練習させられましたから」
「ははは、カーラ様らしい。近々行われる剣技会も楽しみですね」
すべての騎士達が競う剣技会。
女性部門は毎年、イザベラ隊長が優勝し女王陛下の前で剣舞を披露し、優勝の勲章を贈られる名誉ある大会だ。
「イザベラ隊長、今度は絶対に負けません」
「それは大いに期待しよう。私に勝ってリリアが陛下の前で剣舞するのを見たいものだ」
私に勝ってみろと心の声が聞こえるようなイザベラ隊長の背中を、しばらく見送り続けた。
「リリー?」
「……」
「あらら、悔しいね。唇噛みすぎないで、痛めちゃうよ。泣いてないだけまし……涙が目から溢れそうだ」
「泣いてない。絶対泣いてはいない」
「はいはい、朝食食べに行こうね」
そう言って剣を片付け、強く握りしめた私の拳を掴み、とぼとぼとジェイの後ろを連れて行かれるさまは、言わなくてもわかるくらい悔しさを表す姿になっていた。
「悔しいよー、負けちゃったよー」
「うんうん、悔しいよね」
机に突っ伏している私の頭をずっと撫でながら話しを聞いてくれるジェイは、唯一の弱音を吐ける人だ。
「朝食を持って来たから温かいうちに食べよう。しっかり食べて体力つけないと勝てないからさ」
「うん……持ってきてくれてありがとう」
何がいけなかったんだろう。
時々、隙も出来てその都度攻撃もしたけれど……と先ほどのことを考えながら目線は何処か遠くを見て、口の中へ朝食を入れ続けた。
「リリー? リリー?」
「ん? ああい?」
「口の中に入れすぎ」
「ん」
話せなくなるくらい口へ頬張り過ぎた私は、先ほどの総評を聞こうと咀嚼を急ぐ。
「ジェイからみてさっきの私の剣筋はどうだった?」
「剣筋は問題なかったよ。けれどリリーが次にどう動くかイザベラ隊長には解っているように見えた。先回りで攻撃をすることができるようになれば、それが勝敗の分かれ道になると思う」
「そうだったんだ。私の攻撃は解りやすいのか」
「明日から剣技会までは、毎朝俺と練習しよう」
「その練習、私ともお願いしたい」
突然の声がけに横を見ると、朝食を持った閣下が立っていた。
「リリーは俺と練習するので大丈夫です」
「剣筋が違う人とたくさん練習したほうがいい。それに先ほどの敗因も解る」
「何ですか? 敗因は? 教えて下さい」
前のめりになり質問した私の横に朝食を置き、隣の席いいだろうかと言って座った閣下は、ジェイに向かって少し微笑んでいる。
「それで敗因は? 何か解ったのですか?」
「ローウェルト嬢が攻撃を仕掛ける時、僅かだが攻撃する側の足が動くんだ。だから攻撃が読まれているように感じた」
「動いていたんだ……」
自分では解らなかったちょっとの動きがあったのか。
無意識にやっていたのかぁ。
この動きをやらないようにしないと……いや、逆に動かした足とは真逆に攻撃をしたらひょっとしたら……。
「リリー、リリー。おーい」
「えっ、あっごめん」
「独りの世界に入らないでー」
「剣筋の事を考えていたらついね。ということで剣技会まで二人には協力して頂きます」
「ということって、どういう事かな? リリー」
「二人には私の練習相手になってもらうって事。お願いしますね」
「ああ、協力しよう」
「さっきまで落ち込んでいたのに立ち直り早いね」
もっと上達できると思うと気持ちが高揚して、さっきまでの落ち込む気持ちは消え去った。朝食を食べながら三人で語ることは、お互いの剣技への思いだったけれど久しぶりに楽しい時間になり、あんなに話しづらかったレイモンドとも気兼ねなく話している。剣を交え切磋琢磨する仲間と認識すると、昔みたいに笑顔で話すことが出来る。
レイモンドの笑った顔を見ながら、私も一緒になって笑っていた。




