隊長からの愛ある処分
明るい光が窓から入って床に敷かれた絨毯を暖め、部屋の雰囲気も和やかな感じだろうと見渡してみたけれど、重苦しい空気が机に座っている面々から出ていた。
会議室に集められた顔ぶれから事件のことを詳しく話し合うのだろうと、緊張した面持ちでイザベラ隊長の後方で待機する。
「ここに集まってもらったのは、最近起きている事件について話し合うためである。王宮御用達の宝石店の窃盗事件及び女王陛下暗殺未遂事件、式典が迫る中で見過ごせない今、集まってもらった。事件後の詳しい説明を」
ジェイと目が合った私は、頷き一歩前へ出て話す。
「王宮騎士団と共に街の警備を強化。宝石店周辺の聞き込み及び警備人数の増強。毒混入の件は、毒味役の侍女が、数日体の痺れはあるものの命に別状はないとのことです。女王陛下がお茶を飲まずにすんだのが幸いです。調べたところ、茶葉はギリニア国からの贈り物だと紅茶店の店主は言っていました。送られた茶葉をそのまま王宮へ卸したようです。この店も王宮御用達の店でもあります。二つの事件にギリニア国が関与しているとみて貿易停止を行いました」
私の説明が終わるとジェイドは威圧感のある顔をレイモンドに向ける。
「我が国とギリニア国は友好国として長年交流してきた。閣下、この緊張状態をどう思いますか? それと宝石店周辺で見かけたとの報告が上がっています。説明していただけますか?」
誰もが一斉にレイモンドを見ると、ため息を軽く吐いてから話し出した。
「私は国王の命により、ある人物を探している。その人物は元外務大臣のニール・ワーバンだ。粛正の際に逃亡を図り、未だ見つからないでいる」
「取り逃がしたということですね」
「ああ、そうだ。宝石店の周辺にいたのは、その店のオーナーがニール・ワーバンだからだ。窃盗事件が起こったと聞いて気になって調べていた。茶葉に関しては贈り物として陛下に送ってはいない。これだけははっきり言える。わがギリニア国は昔も今もサラニト国を友好国として、これからも交流を続けていくつもりだ。緊張状態? 思ってもいないことを聞かれても不毛なやりとりになるだろう」
「わかりました。こちらとしては事件が解決するまでは貿易は停止させていただきます」
「承知した。一つ聞きたい事があるのだが、この国では白く濁った水晶も売り物として扱うのだろうか。窃盗があった店で平民から貴族から押し寄せて加工されたその水晶を購入している。価値があるようには見えないのだが」
ジェイもイザベラ隊長も初めて知ったのか目を見開き私の方を見た。
「昨日警備したローウェルト嬢、報告できるか?」
「はい、売られている物を確認しましたが、価値がない白く濁った水晶はアクセサリーに加工され安価で売られていました。よって平民でも手に入れることが出来るようです。濁り具合が唯一無二の石になるということで人気がでているのと、窃盗された石で価値があると誤った認識により人々が殺到しているようです」
「やはり価値はないのか、どういうことだ」
「それについて発言をしてよろしいでしょうか?」
私の一言で一斉に視線がこちらを向き、発言を許そうと言われ一歩前へ出る。
「はい、ありがとうございます。石の価値について噂を流している者がいると思います。事件があってすぐに加工されたものが売り出されたのはあまりにも早く、計画的な誘導が感じられるからです。店のオーナーが解った今、解ることは逃走資金の為と思われます。ワーバン侯爵領の鉱山からは水晶が採掘されていたはずです。自作自演による事件だと推測します」
「そうだな、それが妥当だが……陛下の暗殺未遂事件はどう説明する? ギリニア国が関与していないとすると、誰が陛下のお命を狙っているのか、この事件もワーバンが関与していたならその理由はなんだ?」
二つの事件が同一の者の仕業なのか、理由は何なのかと湧き上がる疑問に誰もが視線を落とし熟考しているとレイモンドの声が会議室の静寂を遮った。
「推測なんだが、ワーバンがこの国にいられなくなったらと考えた時、他国への逃亡を考え、その為の逃走資金は重要だ。金だけだと他国も受け入れるか解らない、そうしたら土産も必要となる。となると」
「陛下の暗殺が土産か」
「最悪の事態は考えたくはなかったが、その可能性も考えながらの行動は必要になる。我がギリニア国の問題に巻き込んでしまい、申し訳ない。陛下の護衛ならび街の警備には我が国の兵も増員させよう」
「そうなると閣下の護衛が手薄になってしまいますが」
「問題ない。今は陛下の身の安全が一番大事な時だ。こちらとしても協力はしたい」
「でしたら王宮騎士団もそちらの逃亡者を捕まえる手助けをしましょう」
「その申し出は願ってもないことだ。土地勘がある騎士団の助けにとても感謝する」
重苦しかった空気が和やかな空気に変わり、少しほっとして誰しも表情が緩んだ。
「私からも一ついいかな」
沈黙気味だったイザベラ隊長が、片手を軽く上げ話し出した。
「陛下の護衛の件、近衛隊の代表としてフォンス公爵には感謝する。ただリリアに対し報告を遅らせるよう願い出たことには、私としては看過出来ない。親しい間柄だとしてもリリアは今、この国の騎士として日々を努力している。考えれば解ることだが、リリアの事を思うならその願いはするべきではなかった。これからは思慮深く行動してもらいたい」
イザベラ隊長の発言を聞いたレイモンドは、神妙な面持ちで立ち上がり頭を下げた。
「サラニト国に迷惑をかけたこと、ローウェルト嬢に無理な要求を願い出たこと、自分の驕りからくる恥ずべき行動だった。申し訳なかった」
「私は近衛隊隊長として隊員には罰を与えなければならない。リリア・ローウェルト、明日から一週間、謹慎処分とする。騎士として自分を見つめ直すように」
「はい」
謹慎という処分を受けたけれど、イザベラ隊長は私の事を思って発言してくれたということが言葉一つ一つから感じとれた。ずっと葛藤していた私にとってその友愛のような気持ちに涙腺が緩む。小さなため息をそっと吐いて気持ちを落ち着かせた。
「本日の会議は終了する」
ジェイの一言で各々部屋から出て各持ち場へ戻って行った。明日からの任務の引き継ぎをしなければと急ぎ足で向かっていると呼び止められた。
「ローウェルト嬢」
今はなるべくは避けていたいのにと思いつつも立ち止まり向き合う。
「何でしょう、閣下。急いで戻らなければいけないので」
「申し訳ない」
「先ほど謝罪を受けたので、もう結構ですよ」
「しかし私のせいで処分を受けてしまった。だから……」
「この処分は閣下のせいではありません。私の騎士としての行動によるものですので気に止めることはいっさいしなくていいです」
「その……謹慎中はどうするんだ?」
「家に帰ります」
「ギリニア国へ戻るのか?」
「いいえ、伯母の家へ帰ります」
「そうか……」
何か言いたげな様子を感じつつも挨拶をして去ろうとする。
「急ぎますのでこれで失礼し……きたっ」
「リリーーーーー」
「ふぎゅっ」
いつもより強めのハグをジェイから受けたので変な声をより大きく発してしまう。
「リリーこれから何処行くの? 明日からはどこにいるの? 謹慎中寂しくない? 私も一緒にいようか?」
「はあ、落ち着いてジェイ。明日からは家に帰ります。ジェイは明日からもきちんと仕事をしてください」
「えーーーーリリーと帰るー」
子供みたいに拗ねるジェイは、本当に団長なのかと一瞬思ったけれど会議中の様子を思い出したらジェイを大人しくさせる名案を思いついた。
「会議中のジェイはとてもかっこいいのね」
「へっ」
「だからかっこいいジェイでいてください」
「もちろんだよ。リリーにかっこいいって言われてうれしいな。んっ、閣下じゃないですか、どうしたんです?」
「さっきからいたんだが」
「すみません、私にはリリーしか見えていなかったので」
また二人とも笑顔で話してる。
今のうちに失礼しようと軽く挨拶をしてその場を後にした。
「閣下ー、リリーが私のことをかっこいいって言ってましたよね。いやーうれしいな」
「……身内だからお世辞だろ」
「リリーと私は親戚ですが、婚約者候補に入っているんですよ。かわいいリリーとの結婚も夢じゃないってことです」
笑顔で話していた二人が、この時から作り笑いをしなくなったと思うのは当の本人達しか知らない。




