第3話【三人目の避難者】
「御馳走様!これ代金!」
「あいよ」
ジャックは店主にお金の入った巾着袋を投げつけ、すぐに逃げた女の子と大男達を追った。
「あのお金はどこから手に入れたの?」
「子供連れてった男から盗んだ」
「どひゃー!主人公がやっていいことじゃないよ!」
「俺自身もかなりそう思う」
ジャックも羽根を広げ、大男達を追い抜かした。
「兄貴!あいつも羽根を持ってますぜ!あのガキと似た種族でっせ!」
「仲間か!?」
「同じ種族だが違う!俺があの子供捕まえてやる!」
ジャックはそう言い、真理の義眼を発動させる。そして、数秒過去を見て女の子が向かった場所に先回りした。
「わあっ!!」
「もう逃げられないぞ」
狭い路地裏で通せんぼしたジャックは、ギラっと真理の義眼を輝かせて女の子の動きを止めた。
「……ジャック?」
「俺を知ってる?やはり神の子供か」
「ジャック!!!」
女の子は英雄神ジャックを見て、大喜びではしゃいで抱き着いてきた。ジャックは困ったように真理の義眼を解除し、ゆっくりと女の子を押し離す。
「やっぱ君は神なんだな?どうやってこの世界から来た?」
「……もしかして、誰か分からないの?」
「ッ?どういうことだ?」
女の子は片目を細め、少し拗ねたような表情を浮かべた。ジャックはそれに首を傾げ、ポム吉と目を合わせる。
「よくやっぞ坊や!」
そこに、先程の大男達が追い付いてきた。ジャックは面倒くさそうに両目を上にグルっと回し、ため息を着いて振り返る。
「さあ、引き渡してもらおうか」
「悪いが、この子は俺の知り合いの子供だ。よく言い聞かせておくから、勘弁してやってくれないか?」
「ダメだ。盗みは盗みだ」
「じゃあこれやるよ」
ジャックはそう言って、黄金のアクセサリーを投げ渡した。大男達は、それをまじまじと見て、お互いに何かに気付いたかのように目を合わせる。
「……今回だけだぞ」
「ありがと」
大男達が黄金に満足してその場を立ち去る。それを見て、ジャックはため息をついて女の子の手を引っ張った。
「とにかく場所を移すよ」
ジャックはそう言って路地を出る。そのすぐ近くには、慌てたように何かを探す保安官がウロチョロしている。
「何かお探し?」
「俺のアクセサリーがないんだよ。黄金のアクセサリー」
「ああ、鎧を纏った大男が持ってたのを見たよ」
「ほんとか?」
「確証はないけど」
「どっち行った?」
「あっち」
「ありがとう!」
「いいえ~」
ジャックは保安官を大男が向かった方に誘導する。そして、悪い顔でクスクスと笑った。
「凄い!凄い悪党ぶりだ!」
「あいつは保安官を探していた。ちょっとした親切さ」
「凄い!親切な悪事!」
ポム吉は感激し、ジャックはクスクスと笑っている。だが、すぐに女の子の唖然とした表情を見て、笑いをやめて真剣な顔をする。
「で、君の名前は?」
「……本当に分からないんだ」
「会ったことある?」
「ローズ……お父さんはクルーニャ、お母さんはサタン。まだ思い出せない?」
「ふ~ん」
ジャックは女の子の言葉に首をゆっくりと頷いた。だが、すぐに表情を変えてポム吉と顔を合わせた。
「「ローズ!!」」
ジャックとポム吉は口を合わせて驚いた。ローズは「やっと気付いたか」と言わんばかりの呆れた表情を見せる。
「あの赤ん坊だった!」
「クルーニャとサタンの娘の!」
「「ローズか!」」
「そうよ。ローズ様よ」
クルーニャとサタンによく似た顔立ちに髪色、クルーニャのような赤い澄んだ瞳、サタンのような表情と仕草、ジャックが良く知るローズだ。四年前まで抱っこされていた赤ん坊のローズが、今大きくなって目の前に居る。
「大きくなったな!何歳になった?」
「5歳よ」
「ちゅごい!いつぶり?最後に会ったのはいつ?」
「覚えてないけど、私が四歳になった時……一年前くらいってお父さんが言ってたような……」
「飛ぶのも魔力の扱いも上手だったな。お父さんに習ったのか?」
「まあね。私天才だから」
ジャックとポム吉に質問攻めされるローズは、少しづつご機嫌になって満更でもない表情を浮かべる。
「子供の成長は凄いな」
「ほんと!しゅごい成長だ!特にここ!」
ポム吉はジャックの言葉に頷き、当然のようにローズの胸に飛び込む。そして、「ぺちゃぺちゃ」言いながら照れてる。
「ジャックはまだしも、ポム吉は全く成長ないね!」
「あんま褒めんといてっ」
「バカにされてるんだぞ」
「しょんなっ!?」
ビクッと体を震わすポム吉は、軽いショックでその場から落っこちる。
* * *
ジャックとローズとポム吉は、自然豊かな公園のような場所でピクニックをすることにした。緑豊かな地面の上にレジャーシートを引き、その上にお店で買った異世界の食べ物や紅茶セットを並べる。
「見た目が子供で得するのはこういう時だな。恵まれない子供のフリをするだけで廃棄寸前のお菓子やご飯が貰えた」
ジャックはニコニコしながらお菓子やスイーツを並べ、カップに紅茶を注いで心地の良い風と日光を浴びる。
「かわいいは正義ってことね!」
「じゃあ僕が一番の正義か」
「「それはない」」
ジャックとローズがポム吉の正義を即否定する。ポム吉はシュンとした顔になるが、二人は全く気にせずに「いただきます」を言ってティータイムを楽しむ。
「どこから聞こうか……」
「どこからでもいいよ」
「なぜこの世界に居る?ここが神界や魔界とは違う、全く別の異世界だといことは知ってるのか?」
「うん。半信半疑だったけど、お父さんが言ってた」
「クルーニャとサタンは?」
「分からない。けど、お父さんが急に焦ったように今から異世界に飛ばす。そこでジャックに会えって言って……気付いたらこの世界に居た」
「クルーニャは演算で世界の危機を知ったのか。それで自分の娘だけでも逃がしたってことか?」
ローズの話を整理するジャックは、次第に理解したように頷いて黙り込む。
「簡単に説明するぞ。俺達が居た世界はアウトリュウスという悪魔によって囚われている。そしてそのアウトリュウスもこの世界に居る。俺達がこの世界から脱出し、元の世界に帰る手がかりはアウトリュウスを見つけ、倒すことだ。そして、今は少しでもこの世界の情報が欲しい。だいたい分かったか?」
「分かったけど、随分ぶっ飛んだ話ね」
「ああ。そして奴のせいで今俺は魔力を使用できない」
「どういうこと?私は魔力も魔法も何の制限なく扱えるわ」
「実はこの世界に来て最初に会ったのがアウトリュウスなんだ。きっと奴は俺の自由を奪う為、常に俺を監視していたんだろう」
「恐ろしい悪魔ね……一体どんな悪魔なんだろう」
「一言で言えば変態マザコンサイコホモ野郎だ」
「全然一言じゃないけど……」
ピクニックを済ませた二人は、この未知なる世界を少しでも知る為に散歩に出かけた。色んな種族が居て、色んな街並みがあって、色んな街並みや文化があって、もう何がなにやらだ。
「ジャックとポム吉だけ言葉分かってずるーい」
「魔力が使えたら真理の義眼の能力を共有させられたんだけど、今は無理だ」
「僕にまかしぇて!」
ローズが不満そうに街を歩いていると、ポム吉がでしゃばって自分の体から綿を取り出し、それを小さなピアスに変えた。そして、それをローズの耳に着ける。
「何この最低なデザイン、とてつもなくダサいピアスだわ」
「これを付けるとこの世界の言葉が分かるし、ローズの言葉の他の皆に伝えられる!真理の義眼がなくても解決さ!」
「ほ、ほんとだ。聞こえてくる。他の人達の声が」
ローズは言葉が分かるようになった。それを横目で見るジャックは、ポム吉を引いたような目で距離を取る。
「ほんと、都合のいいクマさんだ」
「照れちゃう!」
「……」
「ジャック?」
急に立ち止まったジャックを見て、ローズがキョトンとする。ジャックは真理の義眼で、目線を背後に向けている。何かに気付いたような深刻な表情だ。
「間違っても大きな反応するなよ」
「え?」
「俺達、尾行されてる」
「ッ!」
「ちょんな!」
大きく反応したポム吉。それを無言で殴るジャックは、ポム吉を拾い上げてローズに渡す。その姿はどう見ても、ぬいぐるみを抱いてる女の子にしか見えない。
「ッ……」
更に、目の前に機械と融合する馬が現れ、それに乗る色んな種族の男達がジャック達を取り囲むように動く。
「保安官だ。君達の名前と種族を聞かせてもらう」
目の前の男達は保安官バッチを見せつけ、ジャック達に尋ねる。
「……人」
ジャックは街の中で得た情報を頼りに、今自分達に近い種族を名乗った。だが、内心焦っている。
「じゃあ羽根を生やし飛び回っていたのはなぜかな?」
保安官の質問に対し、ジャックは(やはりな)と思いながらローズを自分の背後に隠すように前に出る。
「ハーフだからさ。いや、クウォーターだったけな?あいにく俺達兄妹は親を知らない。ほっといてくれ」
「みなしごか?」
「そうさ」
「……それは大変だったな。もう大丈夫だ」
「……」
「二人の保護を……丁重にだぞ」
結局、ジャックとローズは保安官によって保護され、その日は保安官が住む家で寝泊まりした。
「この世界の人たちは親切だな。神々が最低すぎて感覚が麻痺していた」
「親切すぎる!」
* * *
2日後。ジャックとローズを引き取ってくれるという親切な人が現れた。
「思ったよりすぐ見つかったな」
「これでただ飯食べ放題だね」
「最高ちゃむー!」
三人が能天気に荷物をまとめてると、保安官が誰かを連れてやって来た。ドキドキとワクワクでいっぱいな三人は、ニコニコの笑顔で荷物を背負う。
「良かったな坊や。戦士団の隊長さんがお前達を引き取りたいって」
「戦士団?」
「隊長ってことはお金持ちかな?」
「ローガンさんだ。無礼のないようにな」
逆光から姿を見せた大男は、絵にかいたようなゴリマッチョで強面の人間だ。顔には古臭い入れ墨が入っていて、ヒゲとスキンヘッドがよく似合った中年の男。そして、ジャックとローズはこの男を知っている。
「げっ!」
「なっ!」
「今日から俺がお前達の親だ」
「あの時のおじさん!」
男――ローガンは、ジャックとローズにお金を盗まれたバーに居た大男だった。




