最終話【夏の終わり】
神界を破壊した神。それも、七つの亡霊ラストやその魔法を使ったアウトリュウスのような世界を世界で押しつぶすなんて生温いものではない。本当に世界を破壊したのだ。それが覚醒したばかりのカーマなのだ。
皆がカーマに恐怖している。今一番神や悪魔が集まっているこの場所には、ゼウスやクルーニャも居るが、その二人は気絶している。
頼りになるのは、大英雄のジャックだけだ。
「くっ」
「召喚魔法、黒の蝶」
ベルを中心に皆がジャックの治療と魔力補給を行う。だが、すぐには立ち上がれなかった。
「疲労か……足があがらない」
ジャックはその場に座り込んだままで、疲れた足を抑えて悔しそうにする。
「逃げろーー!!」
「別の天界に逃げるんだーー!」
カーマの太陽を見て、皆急いで逃げた。しかし、主神のスサノオが皆の前に立ってそれを阻止する。
「気付け!もう逃げ場はない!奴の魔力を見る限り、残りの世界を全て破壊するだけの魔力がある!ここで止めなければ我々に未来はない!」
「……確かに」
「くっ……でもどうやって……」
「奴を攻撃しろ!!」
「うおおおお!!!」
皆がカーマに攻撃を仕掛ける。しかし、カーマの体から出た雲がそれを全て防ぎ、雲から放たれる雨の弾丸が周りの神々を逆に打ち殺す。
「行くぞジャック!」
「……」
「天気魔法!ウェザー.サン!」
放たれた太陽は、ゆっくりと確実に地に向かって落ちて来る。保持になって逃げる者、抗う者、死を受け入れる者、皆がバラバラの行動を取る。そんな中、ジャックは残された魔力で手の平を天に向けて魔法を放つ。
「光魔法、月読光」
静かに放たれた小さな月は、ゆっくりと宙に浮いて徐々に大きくなる。そして、その月がジャックの手に乗り、ジャックも皆に背中を押されてゆっくりと宙に浮く。周りの魔力が全て月にあつまるように動き、周りが神秘的な光に包まれる。
そして、その三日月は太陽を食らうような形でぶつかり、押し合いを測った。それでも、三日月は圧倒的に太陽より小さくて弱い。
「くっ!」
「皆魔力を!ジャックに魔力を!」
「神々はテレパシーで他の天界や魔界に居る者に伝えろ!皆あの魔法に魔力を送るのだ!」
皆、困惑しながらも手を天に上げて、ジャックの月読光に魔力を送る。次第に次第に大きくなる月は、より輝きを増して太陽を止めるまでの大きさになる。
「まだ足りない!もっと俺にパワーを!」
他の天界や魔界に居る者も、テレビで天界第5階層の様子を見ながら手を天に向ける。全世界の魔力がちょっとずつちょっとずつジャックの魔法に集まる。
「行け!」
「ジャック!」
「大英雄!!」
「アマノの弟子よ!」
「「「いけー!!」」」
皆が最後の希望であるジャックに魔力を送る。更に、ジャックは天津の神と鬼神化の両方の変身をし、一気に魔力を高めて三日月を更に押し上げた。
「うおおおお!!!!!」
「そう来るか!ジャック!!」
だが、カーマが更に魔力を高めて更なる変身を遂げる。焦げ茶色の肌が真っ白になり、長い長い白い髪を逆立てて体から羽根のような白い魔力と雲を放出する。
「くっ!たあああああ!!!」
手が千切れて片手になるジャック。しかし、足元を支えるように白いドラゴンが現れ、ジャックの肩にポム吉が乗った。
「ポム吉!?」
「皆が君に託したんだ!」
「……」
「押し上げるんだ!そして救うんだ!カーマを!」
「ああ、これで終わりだ」
ジャックは皆の魔力と白いドラゴンに押し上げられ、残された右手で三日月を押し上げて太陽をカーマにぶつけた。
「ッ……そうこなくちゃな。ジャック!」
「ありがとな……カーマ」
太陽は月に押し上げられてカーマの体を包み込んだ。カーマは抗えない力の差に怯み、満足したように力を緩めてしまう。
(そっちはどんな景色だ?英雄の景色ってのは想像と違ってさぞ心地が悪いだろうな)
体が炎に包まれる中、見えるのはジャックの涙と英雄としての美しい姿だ。皆に背中を押され、自分を殺めようとする小さな手が遠くに見える。
(だってこっちの景色は心地がいいもの……。この景色を見れるのは悪者の特権何だろうな……)
それを見て、カーマは微笑みを零して線香花火のように空から落ちて行く。まるで、夏の終わりを告げるかのように、美しいくらい儚く散った。
(お前は……泣いてくれるのかな……)
*
静まり返った。燃えて地に落ちたカーマと殺風景の周りを見て、皆が目を合わせて静かに抱き合った。
「やったんだよ……な?」
「勝った!!」
「世界は救われた!」
「うおおおおお!!!」
「やったよ!」
皆が喜ぶ中、ジャックは折れた足を引きずりながらカーマに近寄る。
「がはっ!」
「まだ息があるぞ!」
「殺せ!!」
カーマが血を噴き出したのを見て、皆がカーマに神器を向ける。
「やめろ!!」
だが、ジャックがそれを止める。
「皆、ジャックの言う通りにしろ。ここはジャックに任せて怪我人の保護と治療だ」
スサノオがそう言ったことで、皆が気を遣うようにゆっくりとその場を離れた。スサノオも少し離れ、切なそうにジャックの背中を見ている。
「……」
「ッ……ジャックか?」
カーマの体は見るに耐えなかった。体のほとんどがドロドロになって溶け、心臓や諸に見えている。両目や顔半分も焼けており、呼吸困難になっている。喋れてるのが不思議なくらいだ。
「ああ」
ジャックは静か目を細め、ゆっくりとカーマの近くに座り込む。だが、二人の間に沈黙が続き、しばらく夏の風が二人を包む。
「何か言えよ」
「なんて声をかければいいか……分からなくて」
「ははっ……らしくないな」
ジャックは複雑な気持ちで押しつぶされそうだった。カーマを死に追いやったのが自分だと深く理解しているからこそ、何を言えばいいか分からない。それでも、感情は小さな涙になって零れ落ちた。
「うっ……くっ……」
「ッ……」
「ううっ……」
「泣いてるのか?」
こんなに悲しいのはいつぶりだろうか。悲しくて悲しくて仕方ない。何度涙を拭っても、感情をコントロールしようとしても涙が止まらないのだ。
その涙がカーマの焼け焦げた体に痛みと共に染み込む。
「違う……ふつっ……泣いてない……」
「泣いてないのか……それは悔しいな」
「余計な真似しやがって……俺を助けるような真似さえしなければお前は……」
「前の仕返しだ」
泣くジャックに対して、カーマは二ッと笑った。体は下半身がなくなってボロボロなのに、気持ちがとても軽くなったような笑顔だ。
「うっ……」
「俺のバンダナを……お前に託す。アマノが首にしていたものだ」
「バンダナ……」
赤と白が交差するカーマのバンダナは無事だった。ジャックはそれを振るえた手で取り、涙を流しながらグッと握り締める。
「同じアマノの弟子として……お前が持っていてくれ」
「ああ」
「もう……お別れだ。皆によろしく頼む……ジャック」
「ああっ……ダメだ……死なないでくれ……お前は俺の初めての親友なんだ……出会いは最悪だったけど、親友と呼べる存在なんだよ……だから死なないでくれよ……カーマ」
ジャックはカーマにしがみつき、顔をくしゃくしゃにしてカーマに強く抱き着いた。だが、もう心臓の音
も聞こえず、息を引き取る感覚と冷たい体温を感じていた。
(ありがとう……こんな俺を親友と呼んでくれてありがとう……ジャック)
カーマの命は尽きた。真っ黒に燃え焦げたカーマは、ゆっくりと息を引き取った。誰もが一度しか味わうことのない生命最大の変化……死を迎えたのだ。
「カーマ!カーマ!!ッ……カーーーマ!!!」
何度名前を呼んでも帰ってくるのは静寂だけだ。夏風が全ての終わりを告げるように一吹きし、ジャックの帽子を吹き飛ばした。帽子は二人を遠くで見ていたポム吉に被さる。ポム吉はその帽子を少し上げ、片目でもう一度ジャックを見詰めた。
「うっ!ううっ」
ジャックはしばらくカーマの亡骸を抱き締めていた。太陽が隠れ、月が出る程の時間、ずっとそうしていた。
*
一か月後。
神界や天界の復興は順調に進んでいた。皆、いつもの日常に戻ろうとしている。
「世話になった」
「お前にここは似合わない。二度と来るなよ、英雄神ジャック」
「いや、俺にはお似合いさ」
邪神カーマを倒したジャックは、大英雄から英雄神という肩書が付いた。そして今日、刑期が短くなって出訴したのだ。
「待たせたな」
ジャックは小さな森の中にカーマの墓を立てた。邪神となったカーマに墓参りする者はほとんど居ない。それでも、英雄カーマを知る者だけはここに墓参りしに来るのだ。
「もう秋になったよ。あんなに暑かったのが嘘みたいだ」
ジャックはそう言って缶コーヒーを開け、それを墓に添える。そして、沢山のタバコを墓に添えて、その一つから一本取り出し、火をつけてゆっくりと吸う。
「うへっ……ごほっごほほっ……」
ジャックは煙にむせながらも、タバコを一本静かに吸った。
「お前がタバコを吸ってた理由……今なら分かる気がするよ」
煙が目に染みる。そのせいか、涙が出てくる。ジャックはそれをゆっくり拭い、吸っていたタバコを墓に添えてその場をゆっくり立ち去る。
小さな森の中を静かに歩き、その奥に見えるカーマがよく行く海へと出る。
「……」
そして、魚が跳ねたのを見て、海岸に座って釣り竿を投げた。中々、魚は引っかからない。何分も魚を待つが、一行に魚が来る気配はない。
ただうすら寒い秋の風がジャックを襲うだけで、海はジャックをあざ笑うように揺れる。
「ッ……んっ……」
その冷たい風のせいか、鼻が少し赤くなり、涙目のまま瞬きを何度もした。更に、風すらもジャックをあざ笑うように強くなり、ジャックの帽子を吹き飛ばした。慌てて吹き飛んだ帽子に手を伸ばすが、帽子は後ろに飛んで行って、こっちに歩いて来ていたポム吉に引っかかった。
「照れちゃう!」
そんなポム吉を見て、ジャックは忘れていたものを思い出したかのように鼻で笑った。そして、こっちに来たポム吉から帽子を受け取り、代わりに釣り竿を渡す。
「大物を釣るよ!」
「頼んだ」
孤独だったことも忘れるかのような心地の良い風だ。先程はただ冷たいとしか思わなかったのに、今は海の音と風の冷たさが心地い。
ポム吉も同じだった。心地よい気分で釣りをし、隣のジャックを一瞬見上げて少しづつジャックに近寄る。その小さな体をジャックにくっ付け、片方の足を上げてジャックの膝に乗ろうとしている。
「……」
ジャックはそんなポム吉をしばらく見下ろし、ゆっくりと持ち上げて自分の膝に乗せる。そして、そんなポム吉を撫でて背後に両手をついて海を眺める。
「照れちゃうなぁ」
二人はしばらく海を眺める。だが、釣り竿に魚が引っかかって強い力で引っ張られる。
「来ちゃ!あっ!ほわっ!」
しかし、当然のようにそのまま引っ張られてポム吉だけが海に落っこちた。残ったのは、海を眺める少年の背中だ。それはとても小さく、寂しく、何か悟ったような神秘的なものだった。
ここまで読んでくれた方々ありがとうございます。
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【2026/4/25現在】
四章が完成しました。五月に投稿再会する予定です。今までで一番長い章ですが、その分面白い自信があるます。ここまで読んでくれた皆様、ぜひそちらもよろしくお願いします。




