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ミトロジア ~明日雨が晴れたなら歴史をやり直してみようか~  作者: ビタードール
0部】3章『マリーゴールドにキスを望む』
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第46話【望んだ未来】

 ジャックは思い出していた。神々の愚かさと本性……アマノに対して行った差別や迫害の数々。

 今、神や天使に囲まれ、牙を向けられているのに、こみ上げてくるのは怒りや憎しみだった。誤解を解こうとか、焦りや戸惑いはない。


「またか」


 ボロボロの少年は、まだ治療を受けたばかりの体だ。それだというのに、その殺気と怒りは今にも倒せそうな体に見合わない迫力だ。おかがで、皆が委縮してしまう。


「忠告してやる。俺がクルーニャを殺してなかったこと、メタトロンと脱獄したのは真実だ。だがそれ以外は全て誤解だ。それでも俺を殺しに来るなら、俺も手加減はしない」

「ッ……ミカエル様、どうします?」

「構わぬ。やれ」


 皆が冷や汗をかく中、天使の王ミカエルだけはジャックの忠告を気にしない。ミカエルの合図で皆が動き、ジャックに神器や魔法を振るう。ジャックもすぐに真理の義眼を発動するが、数の多さに圧倒され、攻撃を何度か食らってしまう。しかし、攻撃を受け止めた一人を振り回し、その体をヌンチャクのようにして周りを吹き飛ばす。


「サン.ライト!」


 更に、光で目くらましをし、作られた隙間を走り抜けてその場をできるだけ離れる。


「フン!」

「がはっ!」


 だが、ミカエルが放った魔法がジャックの背中を捉え、ジャックはその場に倒れてしまう。すぐに立ち上がろうとするジャックだが、疲労と傷のせいで立ち上がれない。膝が笑い、震えた手にはなかなか力が入らない。


「クソッ」

「英雄ジャック……諦めてくれ。今なら無期懲役、運が良ければ数千年の刑で済む」

「だから違うって言ってるだろ」


 神の一人が申し訳なさそうに神器をジャックに向ける。しかし、ミカエルはその時間すらも許さず、投げ飛ばした剣でジャックの肩を切り裂いた。


「あああ!!」

「躊躇するな!やれ!そいつはアイムやクルーニャを利用して英雄の名を得ただけの悪魔だ!!人間の皮を被った悪魔だ!」

「くっ……すまない」


 急いで飛んでくるミカエル、震えた剣を振り下ろそうとする神々、追い詰められたジャック。状況は絶望的だ。死を悟ったジャックだが、その表情は死を受け入れていない。以前変わりなく怒りの表情で、鋭い瞳で睨み上げる。


「ウェザー.サン!」


 しかし、九死に一生を得る。上空から放たれた巨大な太陽が神々を飲み込み、一瞬にして灰と化した。ジャックもその目の前に居る神もミカエルも、皆が唖然として上空に居る神を見上げる。

 そこに居るのは、冷たい目と邪神のような雰囲気を放っているカーマだ。


「カーマ?な、なにやって……」


 ジャックは自分の命が助かったといのに、全く嬉しそうじゃない。それどころか、体が震える程に動揺していた。焼け死んだ大量の死体を見て、理解しがたい表情を浮かべる。


「どうした?英雄ジャックは黒幕だったんだろ?早く処刑したらどうだ?」


 ジャックの前に降りてきたカーマは、剣を振り下ろそうとしていた神を睨んで低い声で脅すように言った。それを見て、ミカエルが唾を飲み込んで剣を握る。


「まさか……き、貴様なのか?本当の黒幕は?ジャックを利用したのか?」

「……アウトリュウスのバカが俺の為に使うはずだった蘇生魔法を使ったのは誤算だった。おかげでマモンの処理を強要された」

「そ、そうなんだな?小僧……」


 下を向いてたカーマだが、何の前触れもなくミカエルに太陽を放つ。動揺で反応が遅れたミカエルは、太陽を諸に食らって吹き飛ぶ。


「カーマ!!」


 更に、怒鳴るジャックをも蹴り飛ばし、そこに居た神の首を掴み上げた。


「もう俺に敵は居ないな。多少狂いはあったが、全部計画通りだ」

「がっ。くっ!はなっ……せ……」


 神の意識が吹き飛びそうになったその時、カーマの腕が飛んできた神器で切り落とされた。カーマは神器が飛んできた方向を見て、ギラっと瞳を向ける。


「……まだ元気じゃねぇか。ジャック」

「表出ろ。カーマ」


 歯を食いしばって立ち上がるジャックは、力を振り絞って上空に高く飛んだ。そして、お前も来いと言わんばかりの態度だ。


「フンっ」


 それに乗ったカーマは、魔力で神々を吹き飛ばしてジャックの前に来て、その目をしっかりと合わせる。


「お前、分かってるのか?」


 唾を飲み、恐る恐る放った第一声はそれだった。ジャックはまだカーマを疑っている。


「何がだ」

「殺したんだぞ。神々を」

「だから何だよ」

「俺を助ける為、お前が罪を被ろうとしてるんだな?」

「ッ……」


 カーマの悪事を咎められた表情。それを見て、ジャックは複雑な気持ちになり、下唇を巻いてやるせない顔を伏せた。


「今なら間に合う。俺の為にやったと言えば、死刑は免れる。それにお前はマモンを倒した英雄だ。刑が軽くなる可能性だってある」

「違うんだジャック」

「……違う?」

「俺はこの状況を望んでいたんだ」


 カーマの表情は、見てて悲しくなってしまうような複雑なものだ。それを見て、ジャックは心が苦しくなっていた。戦いの音が止んでとても静かだ。お互いの小さな声がハッキリと聞こえる。耳にこびりつくようだ。


「望んでいた?どこが……何がだ?神を殺すことか?」

「お前を救えること……全てめちゃくちゃに壊すこと……。そして、お前と戦えること……全てだ」

「……」

「本当は青鬼のように無償でお前を救いたかった。けど……やはり俺はダメだった。お前と最後に戦いたいと……本気で勝ちたいと願ってしまった」

「……」

「だからこうしよう。世界の命運を掛け……俺と殺し合おう」


 完全に全てが止まった。匂いも風も静けささえも止まったように、ジャックとカーマだけの空間で時が止まった。理解しがたいジャックの表情が、全てを理解したような覚悟へと変わる。


「本気なんだな?」

「俺が勝ったら全て壊す。お前が勝てば俺という悪党を倒した英雄として平穏な生活が戻る……単純だろ」

「どうしても……なんだな?」

「どっちにしろ、結果は同じなんだ。なら最後くらいわがままを言っていいだろ?」

「分かった。俺とお前、最初で最後の戦いだ」


 * 


「どうなってるの?」


 ポム吉と一緒に辿り着いたベルは、ジャックとカーマが戦い合っている光景を見て困惑していた。


「何があったの?何で二人は戦ってるの?」

「あの白髪の少年が神々を殺したんだ」

「え?」


 近くに居た神に話を聞いて、ベルの困惑は加速する。


「最初はジャックが今までの黒幕なんじゃないかってミカエル様が言ったんだ。だが、ジャックを追い詰めた途端、本当の黒幕が出てきたって話だ」

「その黒幕って……カーマのこと?」

「カーマ?ああ、そう言えばそう呼ばれてた」

「はっ……もしかして……」

「とにかくここから離れたほうがいい。あいつは化け物だ」


 ベルもジャック同様悟ったようだ。カーマの考えを……。


「どうした?戦いの疲労で勝負にならないか?」


 ジャックは一方的にやられていた。覚醒したカーマと元々重症を負っていたジャックが勝負にならないことは、二人だって分かっている。それでも、互いにそれを口にせず戦っている。


「まさか、まだ俺が手加減してくれると思ってるのか?」

「はぁはぁ……」

「分からないようだから教えてやる」


 カーマは両手を天に向け、魔力を高める。すると、手元に出現した太陽がどんどん大きくなって周りの建物や植物を燃やし尽くした。


「熱い!!」

「うあああああ!!」


 余りの大きさと熱さに、周りに居る神や天使達にも被害が及ぶ。慌てて魔力で体を覆うジャックも、関係なく火が移る。


「な、何だよあれ?」

「あんなの見たことない」


 神界に居る皆が太陽を見ていた。実際の太陽と変わらない大きさになった太陽を見て、皆が困惑と絶望を抱いていた。


「まさかあれを放つ気?」

「あの魔力の魔法をか!?この宇宙より広い神界が消し飛んじまうぞ!」

「皆逃げろーー!」


 皆が太陽が放たれる前に転移や世界の扉で逃げて行く。そんな中、太陽はジャックに向けて放たれる。


「最大水力!水鉄砲!」


 それに抗い魔法を放つジャックだが、当然のように太陽に飲み込まれる。


「ライト.ファロン!」


 全ての魔法、全ての攻撃が無駄だった。災害に抗えない人間のように、神々も今のカーマと魔法に抗えなかった。


「ジャックもうダメよ!逃げるよ!転移で逃げて!」

「クソッ!こんなことあるのかよ!」


 太陽が落ちようとしているのに、神界にはまだジャックとベルとポム吉が居る。ベルとポム吉はジャックを引っ張り、逃げようとしている。


「もうダメだ!」

「早く転移を!!」

「ちっ!」

「ほわあああああ!!!」


 ポム吉は太陽によって燃やされる。


 * 


 天界第5階層。

 ジャックはベルと共にサタンの元に転移した。二人共体に火が移って皮膚が熱くなっているが、太陽の脅威からはギリギリ逃れたようだ。


「ポム吉は?」

「私達を逃がす為に盾になったわ」

「あいつなら大丈夫だろう」

「ど、どういうことだ?ジャック」


 サタンは転移してきたジャックとベル、他の神や天使を見て困惑している。


「マモンは死んだんじゃないのか?カーマの魔力が奴の魔力を消したのを感じたぞ」

「今はそのカーマが敵なんだ」

「……カーマが敵?」

「説明してる暇はない。どうやら神界は消えたようだな」


 真理の義眼で見えているのは、チリになって宙を舞う神界の状況だ。そして、ゆっくりと上を見上げる。


「あ、あいつだ!」

「神界を破壊した邪神だ!」」


 皆も上を見て恐れた。世界の扉からヌルリと現れたカーマを見て、皆が震えた足を一歩背後へ引きずる。

 だが、もう皆気が付いていた。世界を破壊できる存在を目の前にし、どこにも逃げ場がないことを。


「俺は邪神カーマ。俺はまだ魔力に満ち溢れているぞ」


 皆を見下ろすカーマは、余裕の態度で再び太陽を創り出す。

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