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ミトロジア ~明日雨が晴れたなら歴史をやり直してみようか~  作者: ビタードール
0部】3章『マリーゴールドにキスを望む』
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第45話【灯火】

 本は素晴らしいな。そう思いながら書物を漁るのは日課だった。学校の図書館も好きだが、一番好きなのはギリシャ中央区になる有名な図書館だ。休日はとても混んでいるが、平日の学校終わりは空いているのだ。


「いい所だね。気にったよ」


 ジャックはそう言って前を歩き、小さな体で名一杯上を見上げて微笑んでいる。だが、一向に本を取らずにただ端から端を眺めては迷うだけだ。それに痺れを切らせたカーマは、絵本を指差してニヤついた笑みを浮かべる。


「そんな迷うならこっちはどうだ?お似合いだ」

「……そうだな。それもいい」

「……」


 カーマは思ったような反応が返ってこず、何だか拍子抜けした。更には、ジャックはノリノリで絵本を漁り、一つの本を取ってカーマに見せた。


「カーマのお気に入りある」

「ああ、泣いた赤鬼か」

「にひっ」


 ジャックはニッと笑い、その絵本を取って近くのソファに座り込む。カーマはそれを見てため息をつき、その迎えの椅子に座った。


「前見たろ?」

「けど、前見たのと種類が違う。こっちの方が絵柄が好みだし、分厚くてページも多い」

「……」


 数分後、ジャックは寂しそうな表情を浮かべた。本の内容に感動したのだろうが、そこに涙や激しい感情はない。あるのは、言葉にできない虚しさで、カーマにも伝わる静かな悲しみだ。


「え?どうしたの?」


 カーマはボーとジャックを眺めていただけだった。なのにジャックは、不思議そうにカーマの顔を見る。


「何のこと?」

「いや、何で泣いてるの?」


 カーマは泣いていた。両目から数的の涙が流れ落ちており、頬が濡れて唇がしょっぱい。カーマも不思議そうに涙を眺め、ゆっくりとそれを拭う。


「……ほんとだ」

「何かあった?」

「いや、何もない」

「……そう」

「けど……」

「けど?」

「強いて言えばうれし涙……かな」

「何が嬉しいの?」

「今この瞬間……今まで幸せに生きたこと……全部だ」

「……余命宣告でもされた?」

「な訳ないだろ」

「変な奴だな」

「お前に言われたくない」


 淡々と会話する二人だが、最後にはクスっと笑い合った。夢か現実か分からない曖昧な記憶だが、それはなぜか感触がある程鮮明なものだった。


 * 


(この命、この命くれてやる。だからどうかお願い……あの悪魔を殺させてくれ……)


 激痛を超える激痛。生きてる感覚はもうない。あるのは冷たい死の感覚。残った意識が掠れていく。


『その願い、僕が叶えるよ』


 声は聞こえない。だが、意識にその言葉が入り込んできた。


「な、どういうことじゃ?」


 水に溶けたカーマの体は、その海から液体になって復活した。それも、白い髪が海のように神秘的に靡き、白い魔力がマントのようになって体を羽織っている。その目の前には、困惑するポム吉が居て、少し遠くでマモンが驚いている。


「……」


 漲る魔力、運動後のようなスッキリした体、輝く太陽、全てが心地い。なのに、死の感覚は消えておらず、自分が死ぬんだという不思議な直観が頭に過っている。


「何が起きた?まさかあの熊が何かしたのか?いや、それにしてはクマ野郎も困惑している……」


 殺したはずの男が更に進化した姿で蘇った。理不尽な現実を受け止めきれない大悪魔は、歯をギリギリと音を立てて食いしばる。


「カーマ大丈夫なの?」

「大丈夫だ。もう全て終わる」


 カーマの魔力が更に高まり、海がカーマを渦巻いて巨大な雲がカーマを取り巻く。


「まさか……さっきは覚醒後だったのではなく、覚醒途中だったのか?だというのなら、これが完全体……この説明のつかない魔力とオーラ。奴の記憶と感情はそれ程に激しく刺激的だったということ……ふざけおって!」

「ウェザー.サン!」

「防御術式!最大!」


 カーマが魔法陣から放った太陽は、島一個分の巨大な物だ。おかげで、海が蒸発して周りの都市も燃えている。


「なっ!熱だけで儂の自動防御を破壊するか!バリア全開放じゃ!」


 太陽はマモンの防御魔法を熱だけで破壊していき、黄色の反射や青色の吸収能力を発動させなかった。そして、マモンの防御領域に侵入し、最後の白いバリアに到達する。最強の矛対最強の盾の戦いだ。


「ヌヌヌッ!!効かヌ!!」


 太陽がどんどん小さくなる。それどころか、マモンは前に前に進み、太陽をカーマに押し返すつもりだ。


「やばい!なんてパワーと執念!このままでは押し返される!」

「ウェザー.クラウン!」


 だが、カーマは巨大な雲で両腕を創り出し、その巨大な雲の手で太陽を抑える。おかげで、状況は均衡し、太陽が全く動かなくなる。徐々に小さくなる太陽、壊れそうなバリア……しかし、勝敗はついた。

 カーマの額についてるバンダナが取れ、額に隠されている紋章が輝いた。瞬間、マモンは押し負け、最後のバリアを破壊された。


「何ッ!!」

「今だカーマ!」

「うおおおおお!!!!」

「ウヌンン!!ぬうおおお!!!」


 太陽がマモンに当たり、海が大きく揺れて激しい波を起こした。空は完全に晴れ、海に打ち上げられたマモンが陸でグッタリと倒れる。そこにゆっくりと降りたカーマは、冷たい目のままマモンを見下ろした。

 ポム吉もそんな二人を見て、何だか気まずそうに手を口に加えている。


「ヌッ……クッ……どうなっている……真っ暗じゃ……」


 マモンは意識があったが、両目と第三の目が焼けて何も見えなくなっている。その体は半分消えており、心臓や臓器が丸見えだ。


「……」

「ッ!小童……そこに居るな……そうか、負けたか。儂の負けか……全く理不尽な結果じゃ……」

「……」

「じゃが……初めて思う存分戦った。死ぬのは癪じゃが、限界まで戦うのは悪くないのぉ」

「……」

「ンッ……フッ……」


 苦しそうに血を吐いたマモンは、そのままグッタリしてゆっくりと死んでいく。それを見て、カーマはホッとため息をつき、晴れた空と広い海を眺める。


「やった!!勝ったよカーマ!」

「ああ。お前のおかげで勝てたよ」

「照れちゃう照れちゃう!……あっ!!」


 照れるポム吉が思い出したかのように声を上げる。


「どうした?」

「マモンは一度息子の体で生きていた!」

「それがどうした?」

「多分大丈夫だと思うけど、マモンの魂はあの世より先にその体に行っちゃう!」

「あの体は死んでるだろ……大丈夫じゃねえか?」

「多分大丈夫だけど、念の為確認した方がいいよ!」

「そうだな。確か神界の遺体管理所にあるはず」

「行こう!」


 ドラゴンになったポム吉は、カーマと死んだマモンを乗せて遺体管理所に向かう。


 * 


 ポム吉の考えは正解だった。遺体管理所は諸にマモンの被害を受けていた。人員不足で誰もおらず、静まり返っているが、一つの死体に意識が宿る。

 その死体は、マモンの息子アモンで、今マモンの魂が入ったばかりだ。死んでいる体はとても冷たく、天井や壁が破壊されて夏風が体を温めてくれる。


「ッ……」


 目を覚ましたマモンは、横にあるヒビの入った鏡に目を向け、ゆっくりと体をそちらに向けた。


「んっ……はぁ」


 この表情、とても落ち着いてる。もう助からないことを悟っているのだ。それでも、その手は救いを求めるように伸びた。

 鏡に映る息子の頬に手を伸ばすが、感触はただの冷たい鏡だ。そして、次は自分の頬に手を当てて、静かに涙を流した。


「ッ……」


 震える体は、死ぬほど冷たい。その体を自ら抱き締め、惨めに縮こまる。ポロポロと涙を流し、抱えきれない後悔を抱いている。


「ううっ……アモンッ……」


 息子の名を呼び、幻想と後悔と愚かな自分を強く強く抱き締めた。


「……」


 その背後には、それをじーっと眺める一人の少女が居る。その背中は小さく、空しく、何か複雑な感情を物語ってる。


 * 


「着いた!」

「ここも被害を受けていたか。もし奴が助かったなら逃げられたかもな」


 遺体管理所に辿り着いたカーマは、ドラゴンから降りて破壊された入口に駆け寄る。だが、その足はゆっくりと止まり、入口から出てきた少女と死体を見て一安心した。


「ベルもここに来ていたのか。どうやら、マモン復活の心配は要らなそうだな」

「ええ。ちゃんと死んだわ」


 入口から出てきたベルは、大きなアモンの死体を姫様抱っこで抱えてゆっくりと歩いている。その姿は、なぜかとても悲しそうだ。


「お、おい。どうした?何かあったのか?」

「え?」


 そんなベルに向かって、カーマは不思議そうに疑問を投げかけた。


「何で、泣いてるんだ?」


 ベルは静かに涙を流していた。


 *


 ジャックは警察と共に行動していた。メタトロンを確保し、ジャックは手錠を付けずに保護されている。


「やっぱ英雄なんだな。お前さんが居なければメタトロンを逃がしていた」

「俺やっぱ刑務所行き?」

「これを表彰されて刑期が短くなるんじゃないか?」

「だといいけど」


 ジャックは疲れたよう様子で警察とたわいのない話をしている。だが、何者かが投げた槍がジャックの肩に当たり、その場に転んでしまう。


「がああ!!いってぇえなあ!!」

「ッ!ミカエル様!」


 槍を投げたのは天使の王様ミカエルだ。怒りの様子でジャックを睨んでおり、皆を殺気で黙らせる。


「その者はメタトロンに協力して逃亡した悪党だ。そいつが居なければ今回の脱獄もなかった」

「ですが彼はメタトロンを倒したのですよ!」

「それは奴がメタトロンに最後の最後に裏切られたからだ。メタトロンの記憶を読んだのだ……間違いない」


 全て事実だ。だが、誤解もある。ジャックは痛みと悔しさを抑え、冷静になってその場に立ち上がる。


「確かに俺はメタトロンと一緒に逃亡しようとした。けど、他の囚人まで脱獄させたのはメタトロンだ!」

「黙れ!他にも罪はある!お前が倒したはずのクルーニャは生きており、お前と行動している所を目撃してる者が居る!ひょっとして貴様、最初からマモン陣営だったのではないか?」

「違う!」

「皆囲め!」


 ジャックはその場の警察に囲まれ、神器を向けられる。


「確かにクルーニャの件は事実だ!けど俺はマモンと組んでいない!」

「ゼウス様を欺けても私は欺けないぞ。今思えば全てそうだ。仲間だったはずのアイムを殺して英雄になったこと、クルーニャを利用してその名を大きくしたこと、全てお前の計画だったのだろう?」

「な!なんだと!?」

「お前は自分が英雄になる為、他の悪党共を利用した!そうだろう!」

「違う!」

「もういい。脱獄した時点で法は適用されない。今殺されても文句は言えんのだ」

「ッ!貴様!」

「そいつは真理の義眼がある!躊躇するな!生死は問わない!捕まえよ!」


 その場に居る全員がジャックに牙をむく。

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