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雨はいつか止んで、優しさが世界を包む  作者: 佐田やすひ
第3章
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旅出

翌朝、まだ暗いうちに俺たちは出発した。

街の、仲の良かったほんの数人にだけ挨拶をしてから、街の東側に出た。

みんな口には出さなかったが、俺たちのことを入国者と考えているようだった。

それでも最後は笑顔で送り出してくれた。

振り返ると、すっかり小さくなった街が見える。

あそこにいる時は気付かなかったけど、あの街なんて、この世界全体から見れば本当に小さなものだったんだな。

たった二週間という短い期間だったが、俺たちの暮らした街の光景はしっかりと目に焼き付いていた。

今更ながら、街から離れることが不安になってきた。


「この先に何があると思う?」


樹が俺に聞いてくる。

はるか前方の地平線には太陽が昇り、まるで俺たちの旅出を祝福してくれているようだ。


「わかるわけあるか、そんなこと。」




街の外は砂漠だった。

この炎天下の中を徒歩で移動するのはいくらこの世界でも辛かった。

汗が滝のように流れ、とにかく喉が渇く。

もう二時間は歩いたはずだが、何も見えてこない。

南側に帝国の壁が見えるだけだ。

本当に俺たち以外に誰かいるんだろうか・・・


「なぁ、これって本当に街あんの?」

ぼんやりと樹に問いかける。

「しらねぇよ。」

樹が苛立たしげにつぶやく。

「こんだけ歩いてんのにまだ何にも見えてこないし。これってこのまま行っても大丈夫なやつかなー。」

「しらねぇよ。」

さっきより語尾に熱がこもった口調で、樹が言う。

「もしこのまま行って何も無かったら、俺たちただのバカじゃん。」

「うるっせぇなぁ・・・。」

「ああ?」

「さっきからごちゃごちゃうるさいんだよ!そんなこと俺が知るわけないだろ?」

「急にでかい声出すなよ!」

「大体、旅に出ようとか言い出したのお前だろうが!」

「こんな時に喧嘩しないでよ!」

片桐が制止する。

「ごめん・・・」

樹が申し訳なさそうに謝る。

俺は何も言わずに、ただ歩いた。

片桐が呟く。

「せめて車があったらね・・・」


「そうだっ!車だ!」


樹が弾けるように叫ぶ。

片桐が困惑して尋ねる。

「え・・・?車がなんなの?」

「車に乗れば良かったんだよ!なんで今まで気づかなかったんだろ。」

いきなり樹は車を発現させた。

「なにこれ?」

「マツダ・アクセラ」

おい、なんだその外人の名前は。

「乗れよ!涼しいぜ!」

樹はやる気満々で運転席に座りだした。

「え・・・。お前が運転すんの?」

「お前ら免許持ってないだろ?」

「お前持ってんの?」

「もちろん。」

あれって確か18歳からだよな。

どうせ樹のことだから、学校サボって免許取りに行ってたんだろうが、どうにも怪しい。

ちらりと片桐を見る。

片桐も車に乗るのをためらっているようだ。

「早くしろよ。」

樹が後部座席の扉を開ける。

そこからは得もいえぬ冷房の冷気が滲み出してくる。

俺たちはその冷気に誘われるように車に乗り込んでしまった。

「よし、じゃあ出すぞー。」

「樹、お前本当に免許持ってるんだよな。」

「持ってるよ。普通のじゃないけど。」

普通のじゃない・・・?

「・・・大型とか?」

「いや、そう言うのじゃなくて、なんかこうはん免許みたいな・・・」

「はん?なにそれ?」

横を見ると、片桐が青ざめていた。

「片桐、どしたの?」

「・・・それって、仮免許のことじゃないの?」

はん免許・・・反免許・・・仮免許・・・

「あ、多分それ!仮免許!」

「お、俺降りr」

言い終わらないうちに車は発進した。


走り出して10秒くらいでスピードメーターは100キロを指した。

樹はひゃほーとか叫びながらハンドルを握りしめている。

2、3度車は宙へと舞い上がり、凄まじい衝撃と共に着地した。

恐い。

とにかく恐い。

初めてジェットコースターに乗った時より恐い。

もうやだ帰りたい・・・

お家帰りたい・・・


やっと揺れに慣れてきた頃、悲劇は起こった。

前で樹が「あっやべっ」と言った気がした。

見てみると、前方に家が建っていた。

と同時に、樹は急にハンドルを切り、凄まじい遠心力で俺はドアに叩きつけられた。

ああ、もうほんと乗らなかったら良かった・・・

・・・肩に妙な違和感がある。

見てみると、俺の肩に片桐が密着しているではないか。

片桐は少し笑っているように見えた。

ああ、久しぶりに片桐が笑ってるの見たな・・・

ここに来てから全然笑ってなかったもんな・・・

やっぱり旅に出て良かったかもしれない。


ところが、片桐は俺からどんどん離れていく。

なんで?

おい、待てよ、片桐、おーい。

あ、違う。

これ片桐が離れて行ってるんじゃない。

俺が車から吹っ飛ばされてるんだ。


片桐と背景の青い空を見つめながら、俺の意識は薄れていった。

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