妄想帝国設立宣言
ぴぴぴぴぴぴぴぴぴ
ヴゥーヴゥーヴゥー
また朝が来た。
手探りでスマホを探し、アラームを止める。
9時か・・・
寝よ・・・
・・・あれ?俺アラームなんてかけたっけ?
起き上がると、見知らぬ赤いスマホが枕元に置いてあるのに気付く。
それも2つ。
隣を見ると、樹が相変わらずのアホズラで寝ていた。
「・・・朝か・・・」
昨日は大変だった。
なんとか片桐と集団の外へ出てからも、1時間ぐらい樹達は騒ぎ続けた。
やっと落ち着きを取り戻した時には、もう完全に東の空に日が昇っていた。
樹曰く、いきなり誰かに心の中に話しかけられたような気がしたと思ったら、いつの間にか叫んでいたという。
その後はざっと周辺を探索してみたり、新しく空間に入ってきた人たちがいたり、この後のことを話し合ったりで色々あり、気付けば夕方だった。
分かったことは、この世界には少なくとも5000人以上の人がいて、ここは誰かにつくられた空間だということだ。
どう考えてもおかしいのは、空間に入っている人数だ。
こんな大規模な空間はつくれるはずないのだが・・・
「でも実際つくられたわけだから、ここがどうやってつくられたかより、どうやって出るか、の方を考えた方がいいかもしれないわね。」
みんなが思い思いの夕食を食べた後に、片桐がポツリと言った。
確かにその通りかもしれない。
でも・・・
ぼーっと昨日のことを思い出していると、俺たちの寝床に片桐が入ってきた。
どうやら俺たちよりも先に目覚めていたようだ。
昨日は疲れていたので、でかいクッションを出してそれに寝そべっているうちに、3人とも寝てしまっていた。
「あ、おはよ。」
「おはよう。あれ?そのスマホ、菊池くんのところにもあるの?」
「樹のもあるぞ、ほら。」2つのスマホを片桐に見せる。
「片桐のところにもあったの?」
「うん。これ。全く同じのが。」
俺たちと同じく赤いスマホだ。
「樹ーお前か?アラーム鳴らしたの。」
「ええー?なに?なにこのスマホ。俺知らない。zzz」
昨日の大行進で体力を使い果たしたのか、全然起きそうにない。
「おい!樹ー寝るなー!」
「だからそれは俺のバイクじゃねーて!パクったやつだよ!」
なにやら物騒な寝言を言っている。
ピコン!
突然3人のスマホが同時に鳴った。
「びっくりしたー・・・なに?」
スマホの画面にはラインの通知がでている。
通知にはこうあった。
[妄想好きな諸君、この世界にようこそ。]
「な、なんだこれ。片桐、これって、」
「・・・多分この世界をつくった人ね・・・」
ピコピコン!
続いて何通かのラインがきた。
[きのうのパレードは楽しんでいただけただろうか。]
[もう分かっている人も多いと思うが、君たちは妄想の世界にいる。]
[そして、もう出ることはできない。]
「なんだこいつ、ふざけやがって・・・」
いつの間に樹が起きて、自分のスマホを見つめている。
[しかし何も心配することはない。]
[この世界では、君たちの望みがなんでもかなうのだ。]
[初めてここに入った人のために言うが、この世界では自分の妄想したことが現実になる。]
[たとえば、おなかが空いたとき、君はパンを食べたいとする。]
[そして、パンのことを考える。]
[パンの香り、食感、見た目。]
[すると、君の前にはパンが出てくる。]
[君の考えた通りのパンだ。]
[もちろんそのパンは食べられる。]
[君の考えた通りの味がする。]
[このほかにも、君は多くのことをそうぞうできる。]
[着たい服、住みたい家、乗りたい乗り物、なりたい動物なんかにもなれる。]
[また、この世界に入れる人は、私たちの元いた世界全体の人数に比べればそう多くない。]
[この世界には今、約10万人の人間がいる。]
「ええ?」
3人同時に驚いた。
[そう、全世界の君たちを私はここに招き入れたのだ。]
「嘘だろ・・・?」
「でも、ここで嘘つく訳ないし・・・」
[この世界に国境はない。]
[各国の言語は存在せず、感覚や概念の直接的なコミニュケーションが可能となる。]
ちらりと樹の方を見る。
概念なんて難しい単語が樹に分かるわけがない。
「なぁ。」そら来た。
「コミュニケーションってなんだ?」
「お前・・・」
[要は、今まで通りの言葉で、どの地域の人とも会話できると言うことだ。]
ほっ。
[元いた世界の各地域にあった気候や地形に世界はつくられている。]
[もちろん季節もある。]
[気が向けば他の地域を旅してみてもいいだろう。]
[まさに理想の世界だ。]
[私はこの世界を望み、この世界を用意した。]
[しかし、この世界を望んだのは私だけではない。]
[同じように、この世界は私だけにつくられたのではない。]
[この世界は、君たちの望みでもあったのだ。]
[君たちは自分でこの世界に入ったのだ。]
[この世界は、君たちの望みがすべてかなう世界だ。]
[いや、ここは君たちの望んだ世界なのだ。]
[そして私はここに、帝国の設立を宣言する。]
「帝国?」
[帝国といっても、私から国民に無理な要求をすることは一切ない。]
主権はこいつかよ。
[これは、無法地帯となったこの世界を治めるための、抑止力に過ぎないのだ。]
[とは言ってみたものの、国には国民が必要だ。]
[もちろん国民は君たちだ。]
[国民になる方法はただ一つ。]
[君たちの今いる地域から南へしばらく行くと、巨大な壁がある。]
[その壁を越えれば、そこは自由と平和の帝国だ。]
[下に、簡単だが国民の権利と義務を送信しておく。]
<国民の義務>
・むやみに争わないこと
・人種や能力、性別などによる差別をしないこと
・平和を維持すること
・幼い者に適切な教育を施すこと
・互いを高め合うこと
<国民の権利>
・上記の義務を放棄しない限りの自由
「どう思う?」
「分からん。」樹が即答する。
「まだラインが来ると思う。」片桐がゆっくりと答える。
「なんで?」
「だってこのままじゃ誰もこの人の帝国に入ろうなんて思わないわ。」
「確かに・・・」
片桐の予想通り、たった一件だけ、追加のラインは来た。
・携帯電話、スマートフォン、その他全ての情報機器の利用




