愚者大行進
夢の中で、俺は何かに追いかけられていた。
どんなにどんなに走っても、何かは追いかけてくる。
周りを見れば、俺以外にも何人もの人たちが走っていた。
みんな何かから逃げているようだった。
俺は心底、何かに追いかけられるのが嫌になった。
でもどこに逃げこめばいいのかわからない。
行き先もわからないまま、俺たちは走り続けた。
「・・・んん?」
・・・どうやら早く起きすぎてしまったようだ。
外はまだ薄暗くて、鳥のさえずりも聞こえない。
一応時間だけ見てもう一度眠ろうと思い、枕もとの時計に手を伸ばす。
あれ。無い。
もう一度枕もとを手探りで探すが、何も置いていない。
寝ぼけて落としたか・・・
まぁ、いいか・・・寝よ・・・
・・・
ひゅうと朝の風が俺を吹きつける。
なんだか外にいるみたいだ。
掛け布団を手探りで探す。
あれ?
掛け布団も無い。
いやそんなはずない。
いくらなんでも掛布団まで・・・あ、あった。
・・・・・・なんだか薄い掛け布団だな・・・え!?これ段ボールじゃん!
そういえばさっきからベットが固いと思ったら、マットも無いらしかった。
俺は異変に気付き、体を起こして周りを見渡す。
辺りには滑り台やブランコが見える。
そこは公園だった。
・・・なんだこれ・・・
とりあえず立ち上がろうとすると、手が滑り、頭からジャリジャリした砂の上に落ちてしまった。
どうやら俺は公園のベンチの上で寝ていたらしかった。
俺は立ち上がって、改めて周りを見渡してみた。
そこは見たことのない公園だった。
昨日は確か終業式があって、反省文書かされて、それから・・・
「すみません。あの・・・」
「ぅわあ?!」
いきなり後ろから話しかけられ、驚きのあまり跳びあがる。
「あ、すみません驚かせてしまって・・・。あ、もしかしてあなたも起きたらいきなりここにいたんですか?」
後ろには、痩せてくたびれたサラリーマンがオロオロしていた。
「え、あ・・・はい。」
「ああ!そうでしたか!ああ、すみません大きな声出しちゃって・・・あ、実は私も同じでつい先程目が覚めたところでして・・・もうホントに不安で不安で・・・」
「あの、」
「はい?!あ、すみませんまた大きな声を・・・」
「あのぉ!」
「はいっ!」
「ここって、妄想空間ですよね?」
「も、妄想空間?と、いいますと・・・やはりこれは夢ではないのですね?!ああ、なんてことだ・・・せっかく今日から家族で旅行に行こうと思っていたのに・・・」
この様子からすると・・・
「あのー・・・もしかしてあなた妄想空間に入るの初めt
「そ、そうだ!!あ、すみません声が大きくて・・・か、帰れるんですよね!?出られるんですよね?!ここから!あなた知ってるんでしょう?!ここはいったいどこなんですか!?あ、すみません大声でまくし立ててしまって・・・私は帰らないといけないんですよ!!私のまさとが、まさとが待ってるんですよ!!ああ、まさと!せっかくの誕生日に
「うるっせぇ!!!」
「はひぃっ!すみませんっ!」
「大体なんだ!?そのすみませんすみませんラッシュは?!あんた、それ口癖だろ!!」
「ひゃいっ!そうです!そのとおりです!」
「こっちの話は聞きもしないくせに自分のことばっかりギャーギャー喚きやがって!終いには息子のまさきとかの話始めるしよー!」
「あの・・・」
「あぁ?」
「まさとです・・・」
「どっちでもいいわ!!」
「はいっ!ごもっともです!」
寝起きで機嫌の悪い俺はまだまだ止まらない。
「ていうか、今の今まで寝てた俺にここがどこかとか、普通聞くか?!えぇ?!」
「いや、それは・・・」
「ああ?なんだ言ってみろ!」
「いえ・・・その・・・」
「ああ?」
ただでさえ痩せ細って背も小さいのに、すっかり萎縮したこの中年は、もうまさに小汚いハムスターのようだ。
「いえ、大したことでは・・・その・・・本当に大したことでは・・・」
「はっきり言え―――!!」
「その・・・・・・・・公園のベンチに・・・しかも段ボールまでかぶって寝ていらしたので・・・その・・・この公園での生活が長い方かと・・・」
「・・・」
・・・
このくたびれた汚い中年の名前は小嶋寛治(名前からしてダメだ)。
今回初めて妄想空間に入ったらしい。
どうやらこの空間の主ではないようで、さっきからやたらと妄想空間について聞いてくる。
「ええ!?考えたものが出るんですか?!や、やってみます。」
・・・
「出ません!!」
「うるさいです。」
「あ、すみません大きなこ
「それより、小嶋さんも俺もこの空間の主じゃないなら、他にも誰かいるはずなんです。」
「というと?」
「だから、この空間をつくった人間がどこかにいるんです。もしかしたら危ない奴かもしれないんで、見つけても騒がないように。」
「お―――い!そこの人―!」
「おい!ばか!」
「ああ?誰に口きいてんだこら!!」
声につられてやってきたのは、明らかにその道の方だった。
「や、やば・・・」
モロ危ない奴じゃん。
俺は振り返り逃げようと・・・したのだが、男の剛腕は俺の肩をしっかりと握っていたのだった。
「歯ぁくいしばれ・・・」
俺は言われた通り歯をくいしばると、しっかりと目を閉じた。
なんで俺の方なんだ・・・
ピュ―――――――――――ド―――ン
・・・?何だこの音?
音の方を見ると、なんと大きな花火が上がっているではないか。
その花火は続いて何発も上がるが、一向に止む気配がない。
男の手が緩む。
今だ!!
男の手を振りほどき、花火の方へ俺は駆け出した。
何だこの空間?
俺の他にもあと少なくても4人以上いるってのか?
・・・ていうか、寝てる最中に空間張られるのが一番嫌なんだよな・・・。
公園の出口を出て、狭い道を抜けると、少し大きな道に出た。
花火はこの先に上がっている。
後ろからさっきのヤーさんが走ってくる。
でも花火まであとちょっとだ・・・!
しばらく走ると大通りに出た。
ていうかなんだこの道。
幅が50メートルくらいあるぞ?
こんな道日本にないだろ・・・
なんの道だ?
道の向こうから吹奏楽の軽快なマーチが聞こえて来る。
見ると、向こうからおびただしい数の人が迫ってきていた。
しかもギャアギャアと何かを大声で喚きながら歩いてくる。
なんだこれ。
やばい奴しかいないじゃん。
と、とにかく逃げ・・・
「おいごら、なに逃げとん?」
しまった。
向こうに気を取られている間にヤーさんは追いついていた。
俺はキョドキョドしながらもなんとか声を絞り出す。
「い、いや、あの、向こう・・・」
「あ?声が小さくて聞こえねぇんだよ!」
「いや、だから
「覚悟しろ・・・」
「うぎゃあああああああああああ!!!」
それは俺の断末魔の叫び声ではなく、迫りくる集団の中の一人が出した半ば狂気を感じる声であった。
「うわあああああああ!!」
「ぎゃあああああああ!!」
「うおおおおおお!!!!」
みんな大小様々ながらそれぞれが本気で叫んでいるのが分かる。
集団はもうほんの10メートル先まで来ている。
やばいやばいやばいやばい
またしてもヤーさんの手が緩んだ隙に、俺は元来た道を引き返した。
しかし、俺はすぐに急停止することになった。
集団の中には樹がいたのだ。
185はある高身長のせいで、人ごみの中からあいつの頭だけがとび出ている。
俺はほんの5秒の間にかなり葛藤したが、仕方なく人混みの中へ入っていった。
「うぎゃあああああ!!!」
「うるせぇ!」
「うおおお!」
「やかましい!いた!おい!肘あたってる!」
なんとか人混みの中を進もうとするが、なかなか樹まで辿り着けない。
押し合いへし合いの中で、吐き気を抑えながらも、人をかき分け、とび出た樹の頭を目指す。いい目印だ。
「ああああああああああ!!!!!」
近づくと、樹も何か叫んでいることに気付く。
相変わらずでかい声だ。
「おい!!樹!!」
「あああああああ!」
「それは返事してるのか?!!」
「ああああああああ!!!」
「いいから、早くここから出るぞ!!!」
樹の手をなんとか掴み、思いっきり引っ張る。
ところが、樹はそれを振り払うと、また叫び出した。
こ、こいつ・・・!
「樹!!!起きろ樹!!!」」
・・・あ、ダメだ。
でかい声出しすぎた・・・
クラクラする。
しかもこの人混みの中だ。
徐々に意識が薄れていく・・・
吹奏楽の軽快なメロディーが俺に囁く。
おい、もう諦めて楽になれよ。
お前も一緒に楽しもうぜ。
・・・あーもうその方が楽かな・・・
おい!しっかりしろ俺!こんなイカレ野郎どもと一緒になるな!
いやもう、寝起きにこれはキツいし・・・俺もなんか叫ぼっかな・・・
おい!おい・・・!しっかりし・・・・・!
「樹くん・・・!樹くん・・・!!」
聞き覚えのある声が聞こえてくる。
どうやら片桐がいるらしい。
泣いているらしい。
俺は叫んでみることにした。
「片桐!!!!」
「ねぇ・・・!本当にどうしたちゃったの・・・?!樹くん・・・!」
おい早く気づけ・・・
「片桐!!!!!!」
「え・・・?菊池くん?!」
「片桐!!」
俺はどうしていいかわからず、とりあえず手を伸ばしてみることにした。
「掴まれ!!」
片桐はやや樹のことを気にしているように見えたが、もう自分ではどうすることもできないことを悟ったのだろう、俺に手を伸ばした。
俺は片桐の手をしっかりと握り、引き寄せた。




