逃避1
顔面を殴られるのは衝撃で始まり、ジンジンとした痛みで終わる。
殴るのも殴られるのも一通りやったと思うが、いまだに顔を殴られるのだけは慣れない。
しまった、と思ったころにはもう遅く、衝撃で意識が薄れかけてきたところに痛みが襲ってくる。
なんとか体勢を立て直しつつ、反撃の準備を開始するも、すぐに次の一撃が入り、地面に突っ伏すまでやられた後には足蹴が待っている。
後はもうひたすら耐えるだけだ。
最近、心の重しがさらに増してきたようで、ずっとイライラしている。
そのせいか、勝てるはずの喧嘩にも勝てない。
友達と遊ぶのももうなんだか面倒で、たまにしか行かなくなった。
しかし、一人になったところで何かが変わるわけでもなく、むしろ余計に不安になるだけだ。
自分はどこにいるのだろう。
思えば昔っから自分で何かを決めて進んできたことなんて一度もなかった気がする。
この前のバンドだって、みんなが楽しそうにしてたから俺もやってみようかと思っただけだ。
ただ周りの流れに乗って過ごしていたら、いつの間にかこんな不良じみたやつになってしまった。
いつか先生が言っていた。
「自分に正直になれ。他人のことなど気にするな。そうしていれば、いつか道が開けるはずだ。」
その自分がいない奴はどうすんだよ、先生、誰か、教えてくれ、俺はどこに行けばいいんだ?
やりたいことなんてない、行くべき場所も分からない、帰るところも消えてしまった、俺は、どうすればいいんだ。
姉貴が死んでからまだ3か月も経っていないのに、もう遠い昔のことのようだ。
「よしよし。」
誰かが俺の頭を撫でる。
あたたかい手だ・・・
「ひかり・・・あんまり動いちゃだめだよ・・・」
「お兄ちゃんが私よりつらそうだったから。よしよし。」
「だめだよ・・・やっぱり俺、生きてちゃダメなやつなんだ。」
「どうしたの?」
「俺があの時風邪ひいて、母さんにうつしたりしたからひかりがこんなことに・・・」
「それはかんけーないって、お医者さんも言ってたでしょ。」
「そうかな・・・でも、やっぱりだめだよ、だめなんだ。」
「お兄ちゃん・・・」
バシッ
「いって!」
「なに寝てんだ樹!お前が言い出したことだろ、最後まで責任もて!」
「うっせーな・・・いきなり叩くな!」
「まだ曲の前奏もできてないんだぞ?!」
「あーもー寝起きにガンガンわめくなうるさい!」
「二人ともうるさい!!」
「はいっシャーセンシタァッ!」
「とにかく今日は前奏だけでも合わして帰ろう?私用事あるし。」
「シャスッ」
あれ?なんだこれ。
もしかして俺、今楽しいのか?
こんなことしても楽しいはずないのに、こんなところにいても楽しいはずないのに、なんで!?
そっか。
俺は、こいつらといるのが楽しいんだ。
もう深く考えるのはよそう。
いや、もう何も考えるな。
もう、なんでもいい。
こいつらと居られるなら。
このせかいに居られるなら。




