第6話 旅の仲間
森の異変から数日後。
王都の勇者協会。
「正式に依頼する」
協会長が言った。
「各地で起きている異変を調査してほしい」
リナは椅子に座っている。
「ええけど」
「学校は?」
部屋が静まり返った。
協会長は額を押さえる。
「君は本当に緊張感がないな」
「あるで」
「どこにだ」
「ちょっと」
職員たちが苦笑する。
協会長は咳払いした。
「もちろん無理にとは言わない」
「だが君にしかできないことがある」
リナは少し考える。
じいちゃんの顔が浮かぶ。
『面白いもん見れるかもしれん』
そう言っていた。
「ほな行くわ」
協会長が頷く。
こうして。
リナの旅が始まった。
翌日。
王都の門前。
荷物を抱えたリナが立っている。
小さな鞄。
オカリナ。
それだけ。
「少なくない?」
声を掛けたのはエレナだった。
「そう?」
「絶対足りないわ」
「足りんかったら買う」
エレナはため息をつく。
その横からガロンが現れる。
巨大な荷物を背負っていた。
「俺の半分分けてやろうか」
「重そうやからええわ」
「ひどいな」
さらに一人。
金色の髪の少女が歩いてくる。
大きなハープを背負っている。
「初めまして」
「私はミリアです」
穏やかな声だった。
「リナや」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
こうして四人の旅が始まった。
最初の数日は。
正直。
ぎこちなかった。
エレナは真面目。
ガロンは勢いで動く。
ミリアは慎重。
リナは適当。
全然噛み合わない。
「まず地図を確認しましょう」
エレナ。
「先に行けば分かる!」
ガロン。
「迷いますよ」
ミリア。
「お腹すいた」
リナ。
「聞いてる!?」
エレナ。
毎日そんな感じだった。
だが。
異変に遭遇するたび。
少しずつ変わっていく。
川の音が消えた村。
鐘の鳴らない町。
歌を忘れた鳥たち。
奏者たちは戦う。
リナは聞く。
そして原因を見つける。
その繰り返しだった。
ある夜。
焚き火を囲んでいた。
ガロンが呟く。
「なあ」
「最初、お前弱いと思ってた」
「せやろな」
リナは平然としている。
「実際弱いし」
「自分で言うなよ」
みんな笑う。
ガロンは続ける。
「でも今は違う」
「俺たちだけじゃ無理だった」
エレナも頷く。
悔しそうだったが。
認めていた。
「私たちはずっと敵を探していた」
「でもあなたは理由を探していた」
リナは首を傾げる。
「普通ちゃう?」
「普通じゃないわ」
即答だった。
「みんな異変があれば敵を探すの」
「あなただけよ」
「まず話を聞こうとするのは」
リナは少し考えた。
そしてぽつりと言う。
「だって」
焚き火が揺れる。
「誰か困っとるんやろ?」
「ほんなら聞かな分からんやん」
静かになった。
ガロンも。
ミリアも。
エレナも。
何も言えなかった。
その考え方自体が。
勇者らしくなかったから。
いや。
もしかしたら。
一番勇者らしかったのかもしれない。
その夜。
みんなが眠った後。
リナは一人でオカリナを吹いていた。
風が流れる。
すると。
久しぶりに聞こえた。
あの声。
『見つけて』
リナが顔を上げる。
『忘れないで』
声は悲しそうだった。
「何をや?」
返事はない。
その代わり。
今まで聞いたことのない音が聞こえた。
ゴォォォ……
まるで遠くで吹く嵐のような音。
いや。
違う。
泣き声だった。
世界そのものが泣いているような。
そんな音。
リナは思わず立ち上がる。
「なんや今の」
そして。
ほんの一瞬だけ。
見えた。
真っ黒な空。
音の無い大地。
崩れていく森。
消えていく川。
気付けば元に戻っていた。
「夢……ちゃうよな」
遠くで風が吹く。
『急いで』
小さな声。
『もう時間がない』
リナはオカリナを握る。
初めて少しだけ不安になる。
今までは困っている音ばかりだった。
でもこれは違う。
何か大きなものが起きている。
世界のどこかで。
そして翌朝。
勇者協会から新たな依頼が届く。
最近発見された古代遺跡。
そこには、
最初の楽器職人に関する記録が残されているかもしれない。




