第4話 忘れられた勇者
選定式の後。
リナは大きな部屋に呼ばれていた。
豪華な部屋だった。
壁には古い楽器が飾られている。
見たこともないものばかりだ。
リナは椅子に座りながら聞いた。
「で、なんなん?」
向かいには老人がいる。
勇者協会長。
選定式で立ち上がったあの人だった。
協会長はじっとリナを見ている。
まるで珍しい生き物でも見るような目だった。
「君は本当に音石の声を聞いたのか?」
「たぶん」
「たぶん?」
「聞こえたもんは聞こえたし」
「他には?」
「昨日も聞こえた」
協会長の表情が変わる。
「何と?」
「たすけてって」
沈黙。
部屋にいた職員たちが顔を見合わせた。
「ありえない」
「記録では……」
「まさか」
リナだけが状況を理解していない。
「だから何なん?」
協会長は深く息を吐いた。
「昔、勇者には二種類いた」
そう言って壁に掛かった古い絵を指差した。
そこには旅人たちが描かれていた。
様々な楽器を持っている。
「奏者」
「そして聴者」
リナは首を傾げる。
「違いは?」
「奏者は音を奏でる者だ」
「音を封じ」
「音を強め」
「魔物と戦う」
それは今の勇者たちだった。
「じゃあ聴者は?」
協会長は静かに答えた。
「世界の声を聞く者」
リナはぽかんとする。
「なんやそれ」
「私もそう思う」
協会長は苦笑した。
「だが神話にはそう書かれている」
彼は古い本を開く。
そこには色褪せた文字。
『聴者は消えゆく音を聞く』
『誰も聞けぬ声を聞く』
『異変の根を見つける』
「つまり?」
「つまり君みたいな人間だ」
リナは考える。
そして言った。
「なんか間違ってへん?」
「何がだ」
「うち普通やで」
職員たちが頭を抱えた。
協会長だけが笑った。
「そういう者だったらしい」
その時。
扉が勢いよく開く。
「失礼します!」
入ってきたのはエレナだった。
「どういうことですか!」
怒っている。
「なぜ彼女が特別扱いされているんです!」
職員が慌てる。
「エレナさん!」
だが協会長は止めない。
「君は何が不満だ?」
「私は一番上手く演奏した!」
「そうだな」
「音石も強く反応した!」
「そうだな」
「なのに彼女が選ばれるんですか!?」
部屋が静かになる。
協会長はゆっくり答えた。
「君は音石を光らせた」
「彼女は音石の声を聞いた」
エレナは言葉を失う。
理解できない。
当然だった。
誰も理解していない。
何百年も現れていない存在なのだから。
リナだけが聞く。
「なあ」
全員の視線が集まる。
「その聴者ってやつになったら何するん?」
協会長は少し困った顔をした。
「分からない」
「は?」
「最後の聴者は三百年以上前だ」
「何も分かってないやん」
「その通りだ」
職員たちが咳払いした。
協会長は続ける。
「ただ一つ分かっていることがある」
窓の外を見る。
王都の遥か向こう。
森の方角。
「最近、世界の音が消え始めている」
部屋の空気が変わった。
「消える?」
「森の音」
「川の音」
「鳥の声」
「各地で異変が起きている」
リナは思い出す。
『たすけて』
あの声。
もしかすると。
「関係あるん?」
協会長は静かに頷いた。
「だから君に頼みたい」
「何を?」
「聞いてほしい」
リナはしばらく黙った。
そして言う。
「まあ」
「聞くだけなら」
協会長が初めて安心した顔を見せる。
こうして。
戦うためではなく。
聞くための旅が始まる。
そしてその夜。
宿舎の部屋。
リナは窓辺でオカリナを手に取った。
小さく吹く。
ポー……
風が揺れる。
そして。
今度ははっきり聞こえた。
『森』
『森へ』
リナは目を見開く。
明日向かう最初の場所。
王都の北にある森だった。




