第3話 音石の声
選定式の日。
王都中央音楽堂。
巨大な円形の建物だった。
観客席には人がびっしり座っている。
王都の住民。
楽器職人。
勇者協会の関係者。
そして全国から集まった候補者たち。
まるで祭りだった。
舞台中央には一つの台座がある。
その上に置かれているのは、拳ほどの大きさの青い石。
音石。
それは“音を聞き取るための石”とされていた。
昔の楽器職人が、世界の音を確かめるために残したものだと言われている。
選定式ではその石の前で演奏を行う。
それだけだ。
音石が何に反応するのか。
どう判断しているのか。
それを説明できる者はいない。
ただ一つだけ分かっている。
“世界と響き合った音だけが、返ってくる”
だからこの儀式は続いている。
理由は誰も説明できないまま。
観客席。
リナは欠伸をしていた。
「緊張しないの?」
隣のエレナが呆れた顔をする。
「なんで?」
「選定式よ?」
「せやけど演奏会みたいなもんやろ」
「あなた本当に参加者?」
「たぶん」
エレナは頭を抱えた。
司会者が声を上げる。
「それでは選定を始めます!」
拍手。
歓声。
候補者たちが次々と舞台へ上がる。
最初はフルート奏者。
美しい演奏だった。
客席から拍手が起こる。
音石は。
少し光っただけ。
次はハープ奏者。
幻想的な音色。
観客はうっとりする。
音石は。
少し光っただけ。
太鼓のガロン。
ドン!
ドン!
ドドン!
会場が震える。
大歓声。
音石は。
少し光っただけ。
「なんか普通やな」
リナが呟く。
エレナが睨む。
「まだよ」
やがて。
エレナの番が来た。
静寂。
彼女はゆっくりと弓を構える。
そして。
一音。
会場の空気が変わる。
誰が聞いても分かる。
上手い。
圧倒的だった。
音は滑らかに流れ。
鳥のように舞い。
最後の音が消える。
会場が総立ちになった。
大拍手。
歓声。
音石も今までで最も強く光った。
青白い輝き。
観客が沸く。
エレナは誇らしげに舞台を降りた。
「どうだった?」
「めっちゃ上手やった」
「でしょう?」
「うん」
「もっと悔しがりなさいよ」
「なんでや」
そして。
候補者は残りわずか。
司会者が名前を呼ぶ。
「次!」
「オカリナ奏者、リナ!」
会場が少しざわつく。
オカリナは珍しい。
しかも地味だ。
観客の期待も低い。
リナは舞台へ上がる。
音石の前に立つ。
近くで見ると、
石は不思議だった。
中で何かが揺れているように見える。
「ん?」
リナは首を傾げた。
聞こえる。
かすかに。
本当にかすかに。
『たすけて』
リナの顔が曇る。
「誰や」
観客はざわつく。
何を言っているのか分からない。
審査員の一人が言う。
「演奏を始めてください」
リナは慌ててオカリナを構えた。
ピー……
緊張したせいか、少し音を外した。
客席から小さな笑い声。
「あ」
リナが顔をしかめる。
その瞬間だった。
ゴォォォ……
音石が輝いた。
会場が真っ白になる。
誰も見たことのない光。
観客席がどよめく。
「なっ!?」
「なんだ!?」
「音石が!?」
青い光が天井まで伸びる。
エレナが立ち上がる。
ガロンも目を見開く。
審査員たちが凍り付く。
そして。
リナだけが聞いた。
風みたいな、途切れそうな音。
リナの背筋が震える。
光が消えた。
静寂。
誰も言葉を発せない。
リナだけがぽつりと言う。
「今、なんかおった」
会場が静まり返る。
審査員席。
一人の老人が立ち上がった。
勇者協会長だった。
彼は震えていた。
「君……」
「何が聞こえた?」
リナは素直に答える。
「風みたいなん」
「音石の中から」
会場がざわつく。
協会長だけは黙っていた。
顔から血の気が引いている。
まるで、
何百年も探していた“異常”を見つけたように。
そして小さく呟く。
「まさか……」
「聴者……」
リナは首を傾げる。
「なんやそれ?」




