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第2話 音の都

王都は大きかった。

想像していたよりずっと。

高い塔。

石畳の道。

行き交う人々。

屋台から漂う香ばしい匂い。

リナはきょろきょろと辺りを見回していた。

「でっか……」

思わず声が漏れる。

隣を歩いていた村長が笑った。

「迷子になるなよ」

「たぶんなる」

「自信満々に言うな」

選定式は三日後。

それまで勇者候補たちは宿舎で過ごすことになっていた。

大きな建物だった。

全国から集まった子供たちがいる。

みんなそれぞれ楽器を抱えていた。

フルート。

ハープ。

バイオリン。

リュート。

太鼓。

中には見たこともない楽器もある。

リナは少しだけわくわくしていた。

宿舎の食堂。

昼食の時間。

リナは一人でパンを食べていた。

念願のでっかいパンだった。

「うま」

幸せそうに頬張る。

その時。

近くの席から拍手が起こった。

振り向く。

一人の少女がバイオリンを弾いていた。

美しい音色だった。

食堂中の視線が集まる。

演奏が終わる。

大きな拍手。

少女は当然のように礼をした。

自信に満ちている。

リナも拍手した。

パンを持ったまま。

少女が近づいてきた。

「あなたも選定式の参加者?」

リナは頷く。

「せやで」

少女がオカリナを見る。

少し驚いた顔。

「オカリナ?」

「うん」

「珍しいわね」

「そうなん?」

「私の周りにはいなかったから」

少女は胸を張る。

「私はエレナ。王都音楽院の首席よ」

「ほー」

「今年は私が選ばれると思う」

「すごいな」

リナは本気で感心した。

エレナは少し拍子抜けした顔になる。

普通なら張り合うところだったのだろう。

だがリナはパンの方が気になっていた。

その日の夕方。

宿舎の中庭。

勇者候補たちが練習していた。

太鼓の音。

笛の音。

弦の音。

様々な音が重なる。

リナも隅に座りオカリナを吹く。

ポーー……

静かな音。

誰も気に留めない。

だが。

ふと。

リナは吹くのをやめた。

「ん?」

風が吹いた。

木の葉が揺れる。

ただそれだけ。

なのに。

何か聞こえた気がした。

「どうした?」

近くを通った少年が声を掛ける。

大きな太鼓を背負っている。

「今なんか聞こえへんかった?」

「何が?」

「いや……」

リナは首を傾げた。

分からない。

風の音に混じって。

誰かが話しかけたような。

そんな気がしただけ。

「気のせいか」

「変なやつだな」

少年は笑った。

「俺はガロン」

「リナや」

「よろしく」

「よろしく」

その夜。

宿舎の屋上。

眠れなくて外へ出た。

王都の夜景が見える。

灯りが星みたいだった。

リナはオカリナを手に取る。

小さく吹く。

ポー……

すると。

また聞こえた。

今度ははっきり。

かすかな声。

遠くから吹く風のような声。

『たすけて』

リナの指が止まる。

「え?」

周りを見る。

誰もいない。

もう一度聞く。

静寂。

風だけ。

「なんや今の」

胸が少しざわつく。

怖いというより。

不思議だった。

まるで。

オカリナの向こうから聞こえたみたいな。

翌朝。

選定式前日。

王都中が祭りのような賑わいを見せていた。

候補者たちは最後の練習に励む。

誰もが選ばれたいと思っている。

誰もが自分の音を磨いている。

だが。

リナだけは違った。

中庭のベンチに座り。

考えていた。

「たすけてって誰やろ」

そして翌日。

選定式が始まる。

数百年ぶりに。

歴史から消えたはずの存在が現れることを。

まだ誰も知らなかった。

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