その8 井上ヒロミ
ゲストフロアは15階建て社屋の7階にある。
ワンフロアにゲストルームが4部屋。
7階は普段は立ち入り禁止になっている。
エレベーターも止まらないし、非常階段は他のフロアから分離された専用階段だ。
この社屋を建てる際に、安全性を考慮してゲストフロアを低層階に設ける予定だったらしいが、東京湾がより良く臨める7階に変更したらしい。
僕らプロジェクト・メンバーはエレベーターに乗って7階に向かった。
秦さんが、ボタンパネルの数字キーを数回押すと、普段は無効化されている7階のボタンが光った。
エレベーターが7階で止まりドアが開く。
僕は初めて7階に足を踏み入れた。
天井が高い。
廻廊の壁には大きな窓ガラス。
夕暮れ時の東京湾が見える。
照明は明る過ぎずに、外の景色を遮らない程度に窓ガラスに反射している。
装飾感は薄くてシンプルけど、内装の全てがあるコンセプトのもとに調和されている感じだ。
僕はその”あるコンセプト”を言語化できていなかった。
全員が秦さんの後について歩き出す。
「金かけてんなぁー」
声の方を見ると、ガタイはいいけど幼顔の男が、キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていた。
井上ヒロミ。
秦さん以外のメンバーは初めて見る顔ぶれで、僕には全員がモノクロのアバターのような均一な存在だったけど、最初にキャラに色が付いたメンバーが、この 井上ヒロミ だった。
そして井上ヒロミは、この瞬間、僕の何かにさりげなく引っ掛かったんだ。
僕らが案内された部屋は、内部が更に可動式パーティションで4つのブースに仕切られていた。
他のブースには既に人がいるようだった。
残念ながら、僕らのブースは窓際ではなかったから”ウリ”の景色は見えなかったんだ。
ブースには大きな円卓があって、全員が適当に席に着いた。
気が付けば、僕の横には井上ヒロミが座っていた。




