その22 予定調和
「私ね、AIを予定調和の世界に引きずり込んで、AIに誘導尋問することができるんです」
忙しくスマホを叩きながら、井上ヒロミが甲高い声を上げた。
誰に話しかけているんだろう……
僕に……?
独り言……か?
「そうすると、どうなると思います?」
僕は右隣りの井上ヒロミを見た。
「あの、僕に話しかけてます?」
「とも言えますね。で、どうなると思います?」
「自分の思った通りのレスをAIに返させることができる……じゃないでしょうか」
「半分正解です」
予定調和に誘導尋問……
他の半分は何だ?
……いや、待てよ。
僕に考えさせている時点で、もう井上ヒロミのペースじゃないか。
僕を出し抜くつもりか?
「コレ、単純な話なんですよ。例えば……」
井上ヒロミは、僕を見ていない。
「AIに、『これから私を不愉快にするようなことを一切言わないように』と伝えるとします。すると、どうなると思いますか?」
「AIは、ユーザーが不愉快になるようなレスを避けるようになる……ですかね」
「それも半分ですね」
「正確には違うんですよ。不愉快なことを言わないAIになるんじゃないんです」
「あなたが、不愉快になる情報に出会えない世界になるんです」
「この違い、分かります?」
僕は少し不愉快になって答えた。
「それ、AI自身に聞けば分かることでしょう?」
井上ヒロミは、僕の言葉など聞こえなかったかのように続けた。
「そういうふうに設計されているんですよ、現在の生成AIは。そこに少なくない金をかけているんです」
また金の話か、ま、いいけど。
「例えば日本語。日本語は他言語に比べて様々な…なんて言うか、Politeness Levelsを持つ言語ですよね。生成AIにそれら…つまり、Politeness Levels を使い熟させる場合、当然、その対応にかかるコストは少なくありません。その点、英語は楽ですよね」
「あ、チューリング・テストをご存知ですよね」
井上ヒロミの、スマホをタップする指は止まっていない。
僕の指は止まっていた……
……なんだろう……この人…この感じ……




