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ショートショート連載 僕とAIと信号機と  作者: あみれん


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17/26

その17 ファシリテーションをプロレス実況にしてみた

僕は、目の前のでかい弁当箱のような器に全部の料理が一度に出された「コース料理」を眺めていた。

秦さんが「今日はコース料理です」と言った時、僕は料理が一品ずつ順番に出てくるものだと思っていた。

でも、このでかい弁当箱を見て思ったんだ。


へぇ、こういうのもコース料理って言うんだ――


井上ヒロミは、何故この”コース料理”を見て金がかかっていると言ったのだろう。

きっと、こんなふうに答えるんじゃないかな。


一度に出されたすべての料理が、それぞれ適切な温度と状態で提供されているでしょう。これは、料理人の数が多い証拠です。つまり、人件費に金をかけているのです。


僕はそこまで考えると、右隣りに気づかれないようにクスッと笑った。


なんだ、僕も"井上ヒロミ"チックに考えられるじゃないか――


「秦さん」


中島マナの声だ。


「はい」


秦さんはヨーグルトのスプーンを口に運ぼうとしていた。


「秦さんがファシリテイターでいらっしゃるなら、誰が我々の生産性を評価するのでしょうか?」


秦さんは、スプーンをヨーグルトの器に戻した。


「それは、プロジェクト全体の評価の話ですか? それとも、メンバー個人の能力査定の話ですか?」


「後者の方です」


中島マナの喋りは、いつも前ノリだ。

茶色から焦茶に変更だ。


「確かに、今日のレジメはこの件に触れていませんでしたね。中島さん、あなたは誰が評価すべきだと思いますか?」


「本来であれば秦さんだと思いますが、適任者が思いつきません。だからお聞きしています」


「誰か、この件について意見はありませんか?」


秦さんは、メンバーを見渡す。

声を上げたのは、井上ヒロミだ。


「秦さん、今日の説明会のレジメを壁のモニターに映してください」


秦さんの後ろの壁のモニターが光り、今日の説明会のレジメが映し出された。


「スクロールしてください」


秦さんは、レジメをスクロールさせる。


「そこで止めてください」


モニターには「2.当社のAI事業の概要」が表示されている。


井上ヒロミは甲高い声で言った。


「ああ、そういうことですか」


一瞬、中島マナの視線が井上ヒロミに向かって前ノリでスイングした。

そして、すぐにモニターに視線を戻した。

しばらくして、中島マナの声が漏れた。


「あぁ......パフォーマンス・レビュー事業…ですか?」


秦さんは何も言わず、笑顔でサムアップした。


……なんか、飽きてきたな、この親睦会。

帰ってAIと信号機の実地調査の議論をしたいな。


「あの…分からないんですけど」


川口ミノリだ。


「はぁ?」


フフ出たぞ、中島マナの前ノリ攻撃。

不快感を最初にお見舞いして、マウントポジションを狙う常套攻撃だ。


川口ミノリは、助けを乞う様な表情で僕を見始めた。


え?なんで僕? 言い出しっぺは、僕の右にいる井上ヒロミなんだけどなぁ。


その井上ヒロミは、スマホを操作していた。

中島マナが川口ミノリに口を開きかけた瞬間、僕が更に前ノリした。


「川口さん、パフォーマンス・レビュー事業の内容は理解できていますか?」


中島マナが、僕を見て小さく「はぁ?」と言った気がした。


「あの、はい。当社の能力査定AIのアウトソーシング・サービス事業、と理解しています……あ、そういう…ことか…」


僕は、秦さんの真似をして無言でサムアップした。


「川口さん、本当に理解しているの? 私達の生産性の足を引っ張らないで下さいね」


出鼻を僕に挫かれた中島マナが、今度は寝技でマウントを取ろうとしていた。


「あの、はい。私なりに理解していると思っています」


川口ミノリがオズオズと返す。


「はぁ? “私なりに”、じゃ困るんですけど。大事なのは共通認識なのよ」


出た、これは…中島マナの寝技からの、ロープ技だ。


「あ、はい…」


川口ミノリは、更にオズオズと答える。


「川口さん、あなたの意見を聞かせて下さい」


今度は秦さんの前ノリ・レフェリーストップが入った。


「はい、メンバーの能力査定を行う適任者は…お客様ですね」


キタァァー! ロープに飛ばされてからの逆転ラリアットだ!

中島マナはマットに沈み、川口ミノリがそのままフォールに入った!


秦さんは、再びニコニコと無言でサムアップをした。


決まった!カウント・スリーだーー

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