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ショートショート連載 僕とAIと信号機と  作者: あみれん


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15/26

その15 カルパッチョと人称代名詞

「うん、美味かった。さすが金かけているだけあるわ」


甲高くて、よく響く声だ。

井上ヒロミは、ヨーグルトのスプーンを紙ナプキンの上に置いた。

ヨーグルトを食べ終えたという事は、全て食べ終えた、ということだ。

今のところ、井上ヒロミとは僕の中ではそういう人間だった。


その声に釣られたのか、さっきまで箸の止まっていた他のメンバー達も箸を動かし始める。

ブース内に音が戻り始めた。

僕は、ローストビーフを数切れ食べただけで、前菜にも箸を付けていない。


水を飲もうとした瞬間、井上ヒロミが僕の方に体を向けた。


「自分の人称代名詞を言わない人ですね」


僕は少し驚いて、グラスを持った手を止めた。


「え?」


「自分の人称代名詞を言わない人は、次の三つに分類できます」


僕は井上ヒロミに顔を向ける。


「簡単に言うと――

自己主張を控えたい人間、

警戒心が強い人間、

客観性を重視している人間」


井上ヒロミは、その幼顔を少し傾ける。


「あなたはどれだろう…まだ、見えないな。それより、川口さんがあなたを見ていますよ」


そう言うと、井上ヒロミは体の向きを戻した。

僕が川口ミノリに視線を向けると、彼女はすかさず視線を下げた。


何か僕に言いたい事があるのか?

だったら言えばいいのに。


それより…自分の人称代名詞を言わない…つまり、僕は話す時に「私は」とか「僕は」と言わない…そういうことか?

意識したことも認識したこともなかった。

でも、それが一体何なんだ?


僕は前菜に箸を付けた。


美味い。

貝だ…ホタテか?

このオイルは、オリーブオイル。

何かの水菜が乗っている。

スパイシーなレモン風味。


「この帆立のカルパッチョ、チョー美味しい!」


川口ミノリの声だ。


ヘェ~、コレが帆立のカルパッチョなんだ。


今度は僕が体を井上ヒロミに向けた。


「"金がかかっている"って、何故分かるんですか?」


今度は井上ヒロミが言った。


「え?」


「ゲストフロアの内装や、この料理を見た時にそう言ってましたよね」


「ああ⋯」


井上ヒロミは、ゆっくりと僕に向き合うように体の向きを変えた。

よく見ると、その顔は幼顔じゃなかったんだ。

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