その14 ブーメラン
「秦さんがこの場で仰った”生産性”の定義ですが、それは”情報伝達の効率性”と等しいのです」
川口ミノリが言葉を挟む。
「それって…」
僕は構わず続ける。
「組織に階層があれば、情報は階層を経由します。メンバーからリーダーへ、リーダーからマネージャーへ。逆方向も同じです。そこには必ず時間が発生します」
「三角形をイメージして下さい。頂点Aをマネージャー、底辺を結ぶ二点のB、Cを我々のようなただのメンバーとします。もうお分かりですよね。情報伝達ルートが幾何学の問題に置き換えられます」
「まあ、ここまでは気付いた方もいらっしゃるでしょう」
僕が中島マナを見ると、彼女は僕から視線を外した。
その横で、川口ミノリが頷いている。
他のメンバーは無反応だ。
秦さんは、相変わらずニコニコ。
「いくら効率的な情報伝達ルートを確保しても、それを効率的に運用しなければ意味がありません」
「つまり、メンバー間の情報格差を無くす、これがチーム全体の生産性を上げる本丸です」
「得た情報を自身の既得権益のように隠匿してはならないのです。必ずメンバー全員に共有する必要があります。こればかりは、システムや制度で制御しきれません。我々自身の姿勢にかかっているのです」
「チームワークとは、仲良しクラブではありません。一軍、二軍や、派閥、同調圧力もあってはなりません。このプロジェクトで唯一、特権的なメンバーは、秦さんだけです」
「秦さんは、このプロジェクトの全責任を負う立場にあります。だから、我々は秦さんの特権を許容できるのです」
「このプロジェクトメンバーのファシリテイターは秦さんだけです。後は、効率的なシステムと運用がファシリテイトしていくのです」
僕はもう一度、中島マナを見た。
彼女はどこか遠くを見ていた。
僕は思った。
ここで彼女に「ちょっと、聞いてます?!」と言ったら面白いかなぁ。




