その13 なんだかなぁ
「ちょっと、聞いてます?!」
声の主は、中島マナだ。
僕は、どこにも合わせていなかった視線を彼女の顔に合わせた。
僕より…10は上かな。
僕は応えた。
「『聞いてます?』って、何故聞いたんですか?」
「はぁ? だって、あなたの名前を言っても、まるで無視していたじゃないの」
「はぁ?」 が中島マナの口癖のようだ。
まず、自分の不愉快な感情を最初に示す話し方。
マウントを取りたがる人間の典型的な話し方、そして、会話を一気に不穏な方向に持っていく話し方だ。
話すリズムや声のトーンも頂けない。
ふ〜ん、そういうことか。
「中島さん、あなたの話は聞いていませんでした」
「はぁ? どういう意味? それって失礼じゃないの?」
「我々の関係性はフラットです。つまり、それぞれのメンバーには等しく情報を取捨選択する権利が付与されています」
「つまり、私の話は聞く必要がない、そう言っているの?」
「その通りです」
中島マナの顔が一気に赤く、いや、茶色に変色した。
「随分と失礼な人ね! 私はさっきから秦さんが仰った”生産性”の定義の議論をファシリテイトしているつもりよ! 少なくとも、このプロジェクトのメンバーとして、そう、私を含む他のメンバーと等しく、あなたはこの議論に参加する義務があるんじゃないの?!」
僕は、AIだったらこうレスするだろう、いや、こうレスして欲しい、そのレスを、なるべくプロンプトに応答するイメージで言ってみた。
「議論には賛成していません、時間の無駄、それこそ非生産的だからです。秦さんが意味する”生産性”の定義、それは秦さんの”前振り”を考えれば自明です」
中島マナの顔が一層険しくなった。
決まりだ、この人は茶色だ。
僕はローストビーフを一切れ箸で摘み、ソースをつけて口に入れた。
和風ソースだ…美味い!
「ちょっと、どこまで失礼な人なの? 答えになっていないんですけど!」
現在の生成AIはプロンプトの入力内容に答えるだけ、それを分かってないのかな。
あ〜、この中島マナって人、何でこの人がこのプロジェクトのメンバーなんだろう。
そうか…サクラは彼女なのかもしれない。
誰も話さない。誰も音を立てない。
あ、いや、井上ヒロミのフォークが器に当たる音だけが響いている。
僕は話し出す。
「秦さんの言う”生産性”の定義ですが…」




