その10 前振り
「失礼致します」
二人の女性と一人の男性が大きなワゴンを押しながら僕らのブースに入ってきた。
三人は手際よく円卓にグラス、スープカップや料理の盛られた器を並べていく。
並べ終えると、その中の女性が言った。
「お料理とお飲み物はこれで全てでございます。お飲み物はこちらのドリンクサーバからご自由にお飲み頂けます。お水、麦茶、オレンジジュースの3種類がございます。ホットドリンクはございません」
三人がブースから出て行った。
井上ヒロミがグラスを持って席を立つ。
麦茶のドリンクサーバのタップから麦茶を注ぐ。
他のメンバーもグラスを持って席を立ち始める。
席に戻った井上ヒロミは、自分の目の前に並べられた料理を見て言った。
「金かけてるなぁ」
秦さんは料理を食べ始めていた。
料理は大きな弁当箱のような器に盛られていた。
器は五つに仕切られていて、それぞれ前菜、肉料理、魚料理、野菜料理、フルーツの乗ったヨーグルトが盛られている。
僕にはこれが”金のかかった料理”かどうかは分からない。
僕はスープを飲んだ。
うまい!
ブース内が静かに騒めき始めていた。
会話を始めるメンバーもいた。
「井上さん、あなたの生産性に関する質問だけど、その件について、この場で私は前振りをしてありますよ。分かりますか?」
秦さんが言った。
井上ヒロミは、口をモグモグさせながら顔を上げ、秦さんに視線を合わせた。
場が再び沈黙した。
井上ヒロミは口をモグモグさせ終えると、甲高い声で言った。
「ああ、そういうことですか」
井上ヒロミは再び料理に視線を移し、箸を付けた。
秦さんは無言で料理を食べている。
他のメンバーは井上ヒロミを見ている。
僕は思った。
なんだか…面白くなりそうだーー




