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*ヴェイル視点 5

天幕にステラを残して、足早に外へ出た俺は、混乱した感情を整理しきれないまま、部下達の下へ向かった。

その間も俺の体には、煮えたぎるような熱が燻り続けていた。



ああ、危なかった。

あの時、呼び止められていなければ、俺はステラの唇を奪っていた。

そしてそのまま、奥深くまで貪っていただろう。



魔物討伐のため、夜明け前の森で待機していた俺に届いたステラが俺の名を呼ぶ声...。

その声を聞いた時から、どこか俺の心がざわついている。



ステラから目が離せない。


小柄な彼女が、俺が倒した魔物の周りをうろちょろしながら、紙に書き留めている姿は、可愛くて仕方がなかった。

そんなステラをサージェントの騎士が抱き締めていた時は、思わず剣を抜きそうになり、必死に理性で抑え込んだ。

まあ、結局我慢できず、ステラを二人だけの空間に引き込んでしまったが。



その密室のような天幕の中で、俺はステラに魔法を使った。汚れも気にせず、仕事に没頭していた彼女を綺麗にしてやりたいと思ったのだ。

俺の魔力に包まれ、不思議そうにしているステラは、妖精のように儚げで美しかった。



妖精か...。

誰かがステラの事を、花の妖精と呼んでいたな。

それを聞いた時は、不快だったが…。

でも確かに、水に包まれていた彼女は、薔薇の妖精そのものだった。


俺の魔力に浮かされ、うっとりと陶酔する妖艶な妖精の姿に、気付くと、俺は籠絡されてしまっていた。

ステラが甘えるように擦り寄ってきた時は、俺の全てを明け渡しても良いとさえ思ったのだ。



番とは、ここまで甘美なものなのか...。

俺の体には、まだ甘い痺れが残っている。



しかし、それだけではない。

戦闘で昂っていた俺の異能の力が、ステラに触れた時から、穏やかに凪いでいるのだ。

こんなに心が軽く、晴れやかなのはいつぶりか。



「はあ、これはまずいな...。」



ステラという存在が、俺の中に甘く浸透していく。

ダメだと分かっているのに。

引き剥がせない...。






目の前に現れた部下達の姿に、俺は一度、蕩けた思考を引き締める。



「団長、先程、魔物の残党を確認しました。近くです。いかがしますか?」


「分かった。では、このまま終わらせよう。付いてこい!」

俺は数名の部下を引き連れて、もう一度森の奥へ進んだ。凪いでいた異能の力を引き出して。



この力は、不快だ。

使えば使う程、自分が壊れていくのが分かる。強すぎる神の力は、矮小な人の身には合わないのだ。



「早く終わらせよう。」

一気に駆け出し、見えた魔物の首を落とす。その勢いのまま、剣を翻し、背後に迫っていた魔物の脳天に剣先を突き刺した。

そして、青炎で焼き尽くす。

炎に怯んだ魔物が、ジリジリと後退りを始めた所へ、部下達が容赦無く剣を振い、残りの魔物を打ち倒していった。



「お疲れ様です、団長。この群は、これで終わりですね。でも、こいつら何で急に現れたんでしょう?行動パターンがいつもと違うような...。」


「ああ、そうだな。このまま調査を頼む。」


「はい!」



魔物の動きが、どこかおかしい。

光を忌避する魔物が、朝方に群れで行動していたのだ。

何かあるのか?

嫌な予感がする。



「でも、今は...。」


ステラのために、茶を淹れよう。

茶葉を選んで、じっくり時間をかけて。



「ステラ...。」

俺は、重くのし掛かる体を動かして、彼女の下へ急いだ。







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