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侵略のポップコーン  作者: 進常椀富
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異星からの狩人1

「あー、肩凝るー」

 メリコはアマガの身体をソファに下ろすと、肩をぐるぐる回した。

 気絶したアマガをおぶってきたのだった。

 パワーはカンパニースーツのおかげなんとでもなるが、

 同じ姿勢を続けてくるのがキツかったらしい。


 鈴木は虫の袋をテーブルに置くと、進常に向かって言った。

「虫があるからそんなにおかずいらないですね。夕飯なんにしますか?」

 進常が呆れる。

「虫はけっきょく君しか食わんだろう。君は虫だけ食ってればいいけどさ」

「ごはんたっぷりあるからチャーハンにしますか? 虫のお礼にぼく作りますよ」

「いや、チャーハンならわたしに任せてもらおう。そうだな、チャーハンとスープにするか。君は虫食ってろ」

「じゃ、そうします」


 進常は中華鍋などを自慢するだけあって、チャーハンには一家言あるらしい。

 自ら作るという。

 進常が包丁をとりだし、チャーハンの準備を始める。

 鈴木は袋から虫の入ったパックを出してテーブルに並べる。


 メリコは青い顔をして光線銃を抜いた。

「飛びかかってきたら撃つから」


 鈴木はなに食わぬ顔でムカデをパックから取りだした。

「ムカデはあったかいうちのほうがおいしいんだぁー」


 うねった形でムカデが文字通り串刺しにされている。

 焦げた醤油の香ばしい匂いが漂う。

 メリコが呆然と見守るなか、鈴木はムカデの頭からかじりつく。

 毒は加熱によって分解されているので問題ない。


 シャリシャリと音をたてて咀嚼しながら、鈴木はうっとりとした顔で言う。

「あぁー、ニガウマー……。この旨味がたまらないよねー、ムカデは。上品な味っていうかー。焦げた醤油がまたマッチしてるぅー」


 咀嚼を続ける鈴木の表情は、あまりにも幸せそうだった。

 グロテスクなムカデもとても美味しそうに見える。

 メリコの構えた光線銃が徐々に下がっていく。

 メリコはゴクリとのどを鳴らした。

「ホ、ホントにおいしいの? なんかおいしそう……」


 鈴木は待ってましたとばかりに目を輝かせた。

 虫仲間ができるかもしれない。

「うーん、ムカデはちょっと上級者向きかな。まずはタケムシかイナゴからどうぞ。いやセミも食べやすいな」

 鈴木はタケムシの素揚げ、イナゴ串、セミの串揚げのパックを開いてメリコの前へ並べた。

 揚げたて油の匂いが広がる。


「うぅーん……」

 眉間にシワを寄せ、ピンクのポニーテールを揺らしながら、メリコは三種の虫を見比べた。

 意を決したように、セミの串揚げを手にとる。

「これにする。ちょっとカワイイから」

「最初の虫はセミ! ナイスチョイス、お嬢さん! さあ勇気を出していってみよう!」


 メリコはしばらく串刺しのセミを睨んでいたが、思い切ってぱくっと口に入れた。

 セミの一匹まるごとを串から抜きとり、咀嚼する。

 パリパリといい音がした。

 メリコは目を丸くする。

「おいしい! いい匂いが口に広がる! セミおいしい!」

「だろう? セミはおいしいんだ。タケムシとイナゴもおいしいよ。慣れたらムカデもいってみよう!」


「うぅーん……」

 アマガが意識を回復した。

 メリコが声をかける。

「アマガ! セミおいしいよ! アマガも食べて!」言いながらセミをかじる。

 アマガはセミの翅がメリコの口のなかに消えるのを目撃してしまった。

「うぅーん……」

 ふたたび気を失う。


 鈴木は言う。

「アマガさんに虫は早かったか。しょうがない。メリコちゃん、残りは二人で全部食べちゃおう」

「さんせー! 虫おいしー!」


 二人はパリパリシャクシャクと虫を食べ続けた。

 メリコもタケムシ、イナゴ、ムカデを食べる。


 鈴木は心が満たされるのを感じた。

 遠い宇宙の彼方からきた同じ年頃の少女が虫食を理解してくれる。

 一緒に食べてくれる。

 こんなに嬉しいことはない。

 髪を失っただけの価値がある、とまでは言えないが、なかなかに感慨深い状況だった。

 

 虫もあらかた食べ終わったころに、進常のチャーハンができた。進常が聞く。

「二人ともだいぶ虫食べたけど、チャーハンも食べる?」


 メリコは元気よく言った。

「アタシ食べる! チャーハン!」


 鈴木は腹を撫でる。

「ぼくはもういいです。ムカデ二本も食べちゃったし」

「わかった。じゃ、アマガ起こして」


 進常はチャーハンを三人分にわける。

 自分の分は少なめに盛り、メリコとアマガの分を大盛りにしてやった。


 メリコはアマガを起こしにかかった。

 アマガの上半身を起こし、背中から「ハッ!」と活を入れる。

 アマガはそれで目覚めた。

 鈴木はそんな漫画みたいなこと本当にできるんだと感心した。


 目覚めたアマガは虫の姿がなくなり、串しか残っていないのを見て安心した様子だった。

 チャーハンの匂いに食欲をそそられたのか、おずおずと食卓につく。


 進常は自分、メリコ、アマガの前にチャーハンの皿を置くと席について言った。

「じゃ、いただきます」

 メリコとアマガも復唱する。

「いただきます!」

 食事が始まった。

 例によって「おいしい、おいしい!」の大合唱。

 チャーハンを作った進常もまんざらではない様子で微笑んでいた。

 

 鈴木は虫の入っていたパックを片づけ、自分のお茶をいれる。

 時刻は午後九時をまわったところだった。


 進常がリモコンでテレビをつける。

「ここんとこニュース見てなかったからな。見とくか」


 テレビではちょうどニュースをやっていた。

 見出しは『不可思議な流星群、広範囲で目撃』

 アナウンサーのよく通る声が聞こえる。

「今日午後七時ごろ、関東地方の広い範囲で流星群が目撃されました。いま現在活動のピークにある流星群はなく、これほどの数の流星群が目撃されるのは極めて珍しい現象だということです」

 夕空に尾を引いて流れる流星群の映像が映される。

 それは間違いなく、鈴木が破壊したドローンシップの破片が燃え尽きていくさまだった。


 アナウンサーは続ける。

「流星群の発生に先立って、地上から強い発光現象があったとの目撃情報もありますが、流星群との関連は不明です。専門家は稀な気象現象がたまたま重なっただけと分析していいます。次のニュースです……」

 映像はスーツを着た政治家に変わった。


 鈴木が口を開く。

「ビーム撃ったところは映像に残ってないみたいですね。よかった。まさかあの流星群をぼくが作ったなんて誰も思わないだろうけど」


 進常が言った。

「マザーシップはまだ発見されてないようだな」

 口のなかのチャーハンを水で流しこんでから続ける。

「このぶんだと、マザーシップはいったん地球から離れたな。デカイんだからオプティカルジャマーが壊れたんなら地球人にも発見できるはずだ。その報道がないってことは、どっか行ったんだ。たぶん月の裏側とか」


 メリコが言った。

「オプティカルジャマーは何ユニットもあるはずだから、まだ軌道上にいるかもしれないよ」


 アマガも口を開く。

「でもスズキさんの攻撃が地上からマザーシップまで届くとわかって驚いているかもしれません。態勢を整えるためにいったん退いている可能性は多いにあります」


鈴木は自分の髪を撫でた。

「そうだといいんだけど。敵がビビっておとなしくしているあいだに、こっちは宇宙船を直して向こうに突撃。そうできればもう被害もなくて済むしね」


 進常が言った。

「そううまくいくかね。まあ、うまくやらなきゃならないんだけどさ、わたしたちゃ」


 ニュースが終わるとテレビを消し、食事が終わると鈴木が洗い物をした。

 鈴木と進常の入浴が終わるころには、メリコとアマガは所定の位置でもう眠っていた。


 進常はボソリとつぶやいた。

「こいつら風呂にも入らないし、歯磨きもしないな。だいじょうぶか?」


 鈴木が言う。

「服は汚れないって言ってたし、歯も進んだ科学力で虫歯にならないようになってるんじゃないですかね?」

「そうならいいんだけど、ちょっとバッチイな……」


 その晩はもうなにも起こらなかった。

 四人は安らかに長く眠ることができた。


 鈴木はおかっぱになったせいで、

 枕が頭皮に直接触れるのが少し気持ち悪いなと思いながら眠った。



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