28話 オスカーside
「殿下、しっかりしてください。」
「ロベリアが足りない。」
「ダメだなこれは…」
エリアナによる誘拐事件を経て、
ロベリア両親から背中を押されて、
アンジェリカのところに養子にいって、
王妃教育が開始された。
そして、俺がその答えを教えてしまうからと接触禁止が言い渡された。
いや、ロベリアは元男爵令嬢だぞ?
上位貴族とは何もかもが違うんだぞ?
ガラス飾り一つ買うのにブレーキをかけてしまうほどなんだぞ?
パーティの度ドレスを新調する俺たちと違って男爵家では着回すのが当たり前。
さらに男爵家というのは基本的に領民との距離が近く、貴族らしいマナーの周りくどいあれこれなんてあまり必要じゃないらしい。
そんな何も知らない異国から来たような可哀想なロベリアを保護しないなんてどうかしている。
そんな俺を見透かした上での判断なのだろうがだからって完全に接触を禁止することはないだろう。
「殿下、仕事をしてください。」
「ロベリア…」
「はぁ…」
侍従の呆れた視線を向けられたのは何度目か。
数えるのはとうの昔にやめた。
最近学園で同じクラスのアンジェリカにロベリアの話を聞かされる機会が増えた。
かなり頑張っているらしく、その姿がいじらしくて可愛らしいと。
俺が、手取り足取り教えたかったのに。
「最近ちゃんと身なりに気を使うようになって
お洒落のことを聞きにくるから楽しいわ。」
「…あのメガネは?」
「とっくに捨てたに決まってるでしょう。」
「え?じゃあ今はずっと素顔なのか?」
「そうよ、後輩たちも騒いでいたわ。」
「見たいッ!!」
「オスカーは接触禁止でしょう。」
そうして俺の中でロベリアの存在だけがどんどん大きくなっていく。
彼女の頑張りは直接見なくとも周りから自然と入ってきていた。
母上の好みを把握するために客室に向かう途中すれ違う全部の使用人に聞き込みをしたとか。
マナー講師がロベリア様は見どころがありますと報告している姿だったり。
中にはちょっと不穏なものもあるのだが。
「俺たちの料理が気に食わないのか?」
「男爵家で育ったから味がわからないんだろ。」
「また侍女を外に追い出したらしいわよ。」
「ジュリーが泣いてたわ。」
ロベリアがそんなことするわけないだろうが。
と、思っても口出ししたりすれば彼女の評価に関わってくるのだろう。
そう思って口を閉ざすことしかできなかった。
無理をしてない、わけないだろうと思う。
「ロベリア様が頑張ってる時に貴方はなんで腑抜けているんですか。」
「……わかっている。」
「…殿下、この紙にロベリア様への想いを書いてください。」
「小さくて足りない。」
「じゃあ書きませんか。」
「書くけど。」
侍従が俺に渡したのは角砂糖を包んでいた小さな紙だった。
せいぜい書けるのは一言。
『お疲れ様。
君に会いたい。』
そんな俺の文字を見て少しげっそりした様子の侍従はチョビを呼び出し首輪をつけてその紙を結びつけた。
「チョビならロベリア嬢のところまで行けるでしょう。」
「お前天才か。」
「わかったらさっさと仕事をしてください。
じゃないとチョビ作戦は無し。
書いた紙も処分します。」
「仕事する。」
滞っていた仕事をこなしなんとかチョビをロベリアの元へ派遣することに成功した。
そしてしばらくして帰ってきたチョビの首元に新しく飴の包み紙が結ばれていた。
『私も会いたい。』
それだけ、されどその価値は計り知れない。
俺はそれを胸ポケットにしまって仕事を頑張った。
ロベリアが王妃教育にひと段落ついた時に情けないままではいられないと思ったから。
「オスカー、貴方の見つけてきたロベリア…」
「はい」
「悪くないわね。」
「でしょう?」
「しっかり自分で分析をして、考えて、次は確実に改善してきているわ。
確かにまだ荒削りな部分も多い。
でもそれは後からいくらでも修正できるわ。
けど根本の部分、人間性はそうもいかない。」
母上が人を褒めることは滅多にない。
しかもその中の一人が俺が愛してやまないロベリアのことだと思うと、まるで自分のことのように嬉しかった。
ロベリアの努力は確実に身を結んでいる。
次期王太子妃だと皆が認め始めていた。
「…最初はアンジェリカが王太子妃になるべきだと思っていたわ。
王妃教育だって生半可なものじゃない。
たかが男爵令嬢では突破もできないと。」
「それは…」
「貴方たちを見ていると思うの。
アンジェリカと貴方が結ばれたらお互いの能力は高く、それぞれが個として国を導いていく。
でもロベリアの場合は、お互いが足りないところを補ってより良いものにする相乗効果を持った国の運営になるんじゃないかって。」
「母上…」
「逆に置いていかれないように頑張りなさい。」
「はい!」
まさか母上がそんなことを考えていただなんて思いもしなかった。
その言葉に背中を押されて俺自身もまた成長する。
全てはロベリアのおかげだった。
彼女と出会って様々なことが変わった。
俺自身も気づいてなかった俺の一面を引き出して隣で笑って受け入れてくれる。
裏庭で猫を撫でていたメガネで可愛げのない男爵令嬢に一国の王太子である俺がここまで惚れ込むなど誰が想像しただろう?
その日の母上とのお茶会を経て、ロベリアは実務教育へと移り、それに伴って俺との接触禁止も解除された。
俺は走った。
ロベリアがくるだろう客間に。
そして戻ってきた君を抱きしめた。
描いていた夢を、現実にするのは俺だけでは決してできなかった。
ロベリアが頑張ってくれたから今がある。
これからの未来がある。
俺はそれを噛み締めるように彼女の柔らかい唇にキスを落とした。




