表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏庭で野良猫に餌をあげていた私が王太子妃になるまで  作者: 椿


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/31

25話




「…ではお茶会を始めましょう。」

「よろしくお願いします。」


家庭教師の先生に、今この国が抱えている問題について休憩時間に尋ねた。

一つは王妃殿下の管轄だった。


この人は大変な仕事に追われる中、私との時間を作ってくれている。

そんな当たり前のことにやっと気がついた。


そして聞き出すまでには苦労した。

なにせ私に付けられた侍女が職務怠慢しかしないからだ。


「この情報を調べてほしい。」と言っても、聞きにいくどころか「なんで私が?」と言われてしまう始末だった。


だから部屋に向かうまで、すれ違う人達に片っ端から話しかけた。

騎士、掃除中の侍女、庭師、給仕。

断片的な情報をかき集めて王妃殿下の好みを把握して、それをテーブルセッティングしていた使用人に伝えて急遽用意してもらった。


王妃殿下は甘すぎるものは得意じゃない。

ならばビターのチョコレートとナッツを。

お疲れだろうから紅茶ではなくハーブティーを。


「王妃殿下、ぜひハーブティーにレモンを一絞りどうぞ。」

「…ハーブティーにレモンを?

紅茶にではなくて?」

「男爵家ではよく飲まれていました。

レモンには疲労回復効果も含まれ、肌にもいいので母や姉、女性は特に好んでいました。

酸味が気になるようでしたら紅茶同様はちみつをいれるとまろやかになります。」

「…そう」


王妃殿下は静かにレモンを搾り一口口に含むとわずかに目を見開いた。

それから甘いお菓子の中にナッツを見つけるとそれも食されていた。

内心ガッツポーズだ。

これで文句なんてないだろうと胸を張ろうとしてやめる。

まだ、油断なんかできない。

音を立てたりカップを落としたりしたら全てが台無しになる。


「ロベリア嬢」

「…はい。」


急に話しかけられた。

驚きで喉の奥に変に流れ込んで咳き込みそうになるのを必死に抑えた。

一瞬目を細めたからバレていたとは思うが。


「ヤドリス子爵家で先日事件があったのよ。」

「…はい。」

「何か知ってる?」

「………。」


何も応えられなかった。

昨日やっと下位貴族名鑑の名前を覚え始めてヤドリス子爵家のことだってふわっとしか覚えていない。

ミドルス子爵家と隣接しており名前が似ていてまさにつまづいていたところだ。


「そう、今日はこれで失礼するわ。」

「…っありがとうございました。」

「…ハーブティー、美味しかったわ。」

「!」


確かな手応えと新しい課題。

今日は王宮には泊まってまた明日もう一度チャンスがある。

それまで間に少しでも情報を集めよう。


早足で充てられている客室に戻ると前回と同じ侍女がいた。


勝手に椅子に腰掛け爪を見ていた。

本来ならありえない光景だった。

でもこれで私が怒鳴りでもしたら問題になるかもしれないと思うとそれもできなくて。


「あの、図書室から貴族名鑑や資料を持ってきてほしいです。」

「なんで私が?」

「侍女…なんですよね?」

「…はぁ、めんどくさい」


ドアから気だるげに出て行った侍女を見送りながら図書室に行ってくれるのかと期待した。

しかしその侍女は待てども待てども戻ることはなかった。


焦りだけが募っていく。

少しでも知識を詰めて明日のお茶会では王妃殿下の問いに応えられるようにしたいのに。

私は何か間違えた事を頼んだか?


『何でもかんでも自分でやる。

一見自立しているかもしれないけど上位貴族では違うわ。

自分で服を着るのは侍女の仕事を奪う事。

自分で料理をするのも、お風呂に入るのも、小さな汚れひとつの掃除だって誰かの仕事を奪うことになるの。

ロベリアの場合は小さなことを頼むことから慣れるのがいいわ。

例えば本を取ってきてほしい。とかね』


アンジェリカ様に教えられた事を思い出す。

私は間違えてない、はず。

当然の頼みをしただけだ。

侍女が職務放棄をしているだけだ。


どうしたら希望通りに動いてくれる?

考えてもわからない。

だってそもそも私のことを見下すばかりで会話にならない。

会話しない人をどうやって動かせと言うのか。

人の上に立つと言うのは想像以上に大変なことなのだと改めて思い知らされた。


さらにその侍女は食事すら持ってこなかった。

厨房に前回召し上がらなかったし、今回もそうでしょうとでも言ったのか。

完全に舐められていた。

普段なら舐められても構わない。


ただ今は違う。

限られた時間をもらい、結果を出さなければならない。

それなのにただの他人のくだらないプライドに巻き込まれて邪魔をされるというのは私の中で看過できない。


あの侍女はダメだ。

あの侍女が私をオスカーさんから遠ざけるというなら許せない。


…オスカーさんに会いたかった。

カンニングなんてしない。

会話なんてなくていい。

ただ抱きしめて欲しかった。

頑張っても頑張っても認めてくれる人の方がずっと少ない状況が続く中、彼がちゃんと側にいることを実感させてほしかった。

ほんの少しだけ、疲れていた。


ぶみゃぁ…

「…この声、チョビ?」


咄嗟に客室から出ようとドアを開けたらドアの横に控えている騎士に止められた。


「ロベリア様どちらへ?」

「あの…チョビ…猫が…」

「は?現在行われている王妃教育期間中はこの客間を出ることを禁じられております。

すぐにお戻りください。

戻られない場合は報告させていただきます。」

「すみません…。」


そんな私を遠くで職務放棄侍女が仲間の侍女と指を刺してくすくす笑っているのが見えた。

本当に性格が悪いと思う。

仕方なくそのまま開いたドアを閉じて部屋に戻るとどこから入ったのか部屋の真ん中にチョビがグデーンと寝っ転がっていた。


「あれ?廊下から聞こえたと思ったのに…」


猫だから音もなく部屋に遊びに来れたのか。


「ロベリア様?如何しましたか?」

「い、いえなんでもないです。」


嘘をついてしまった。

今となってはチョビは野良ではなく王族、オスカーさんに飼われている猫という扱いなはず。

バレても問題はないはずなのに。


ぶみぃ

「全然痩せてない…

ダイエット頑張るって約束したのに…」

ぶぅ…

「ぶー?猫じゃなくてそれは豚の鳴き声よ?」


なんだか一気に力が抜けた。

ピリピリしていた気持ちが自然と薄れていく。

猫ってすごい。

いや、チョビだからかもしれない。


「どうしてここにきたの?

オスカーさんのところにいたんじゃないの?」

ぶみゃ


ぐるぐると私の手に何かを擦り付けてくる。

首輪、なんてしてただろうか。

オスカーさんがプレゼントしたのだろうか。

そう思ってよく見ると肉に埋まるような形で何かが結びつけられていた。


『お疲れ様。

君に会いたい。』


小さな紙に小さな字で書かれたそれ。

差出人の名前がなくてもこんなことを書くのはオスカーさんくらいだ。

私の状況をきっとどこかで聞いてチョビを来させてくれたのか。

小さな気遣い。だけど私にとっては何よりも求めていたものだった。


「…しんどいよ」

ぶみゃあ…

「悔しい。王妃様冷たい。」

ぶぅ

「侍女は意地悪。兵士は頑固。

あ、でもアンジェリカ様、お義姉様はすごくいい人だったの。

でも今のチョビを見たらどうだろう…」


コロコロまんまるのそれは猫として認識されないかもしれない。


安心すると人はお腹が減るらしい。

ぐうと小さく音を立てた。

でも侍女は食事を持ってこないし、追加で持ってくるように呼び出して頼んだらどんな噂をばら撒かれるかわかったもんじゃない。


「あ、そうだ。」


先週の王妃教育の帰り道の途中でキャンディを見つけたんだった。

窓ガラス越しに並べられている、いつかのガラス細工のような黄金色のそれがオスカーさんの瞳みたいでつい馬車を止めて買ってしまった。

お守りがわりにいつも持ち歩いてるそれを一粒食べると少しだけ元気が出た気がする。


包み紙を開いて、私も返事を書いた。


『私も会いたい。』


「チョビこれをお願いできる?

来てくれてありがとうね

次は必ずおやつ持ってくるようにするわ。」


下手にそのまま廊下に出してしまったら兵士の方に止められてしまう。

そう思った私は窓を開けた。

客室の窓は隣の部屋と繋がっている。

チョビはまんまるだけど猫だから大丈夫だ。

多分。


ぶみゃ…


名残惜しさを感じながらチョビを窓の外に…

…押し出した。

まさか猫なのにお尻が突っかかるとは、思わなかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ