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裏庭で野良猫に餌をあげていた私が王太子妃になるまで  作者: 椿


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19/31

19話




熱が完全に下がるまで3日。

事情聴取を受けさらに3日。

まだ事件が解決したわけではないけど宮廷医師の先生から大丈夫のお墨付きをもらったので、気を張り続ける王宮を出てさっさと寮の自室に戻ろうと荷物をまとめていた時だった。


「ロベリア!」

「え?お父様?お母様?なんでここに…」


私がお世話になっていたのは王宮にある宿泊来客用の一室。

本来なら男爵家の両親がおいそれと足を踏み入れられる場所ではない。


「なんでって、王宮から呼び出されたのよ。」

「ロベリアが新聞に載っていた事件の被害者だと聞いた時の俺たちの衝撃がわかるか?」

「だいたい、昔から貴女は報告連絡相談一つよこさないで、ことが大事になりすぎてから私たちに言うのだもの。

で、今度は一体何をやらかしたの?」

「あー…えっと…」

「「ロベリア」」


いつもの両親の顔に安心するのと同時にまた始まった。説教だ。

怒鳴られたり、叩かれたりはしない。

私がちゃんと納得できる説明をするまで一生続く尋問をされるだけだ。


「何をどこから話せばいいか…」

「全部よ!」

「うぅ…」


両親からの圧に耐えられるわけもなく、貴族が嫌で裏庭で猫と戯れていたところから話し始めた。

そこにオスカーさんが来たこと、伯爵家との縁談のこと、仮面舞踏会のこと、今回のこと。


ここを発ってさっさと寮に戻ろうと思っていたのに逃がしてくれる空気はない。

そもそも機密事項も多いから王宮の外で話すわけにはいかないのだけれど。


「なぜ貴族が嫌いなの?」

「なぜ伯爵家の嫡男じゃダメだったの?」

「ドレスいいものだったでしょ、気に入った?」

なんて時折脱線を挟みながら、話が後半になるにつれ、両親の顔からは血の気が引いて頭を抱え始めた。


まぁ…自分で言うのもなんだけど、裏庭で猫を撫でていたらオスカーさんと恋人になって将来を望まれてるなんて…ねぇ?

私もまだ夢なんじゃないかな。と思っている。


「…やっとわかった。

なぜ王宮から呼び出されたのか。」

「…あなた」

「ロベリア、よく聞きなさい。」


お父様の目がやけに真剣だった。

お母様もこちらを不安げに見つめていた。

なぜそんな顔をするのかわからなかった。


「…もし本当に殿下がロベリアを妃にと望むなら我々の身分じゃ世間様に格好がつかない。」

「…そう、だね。頑張らないと…」

「違う。ロベリアが頑張るとか頑張らないの話じゃないんだよ。

世間様を納得させるのに1番手っ取り早くて確実な方法は養子縁組をされて侯爵家や公爵家のものとして身分をそもそも変えることだ。

お前にその覚悟はあるのか?」

「っ…」


考えたことがないわけじゃなかった。

でもこうしてお父様が真剣に、お母様は涙を浮かべる姿を見て改めて実感する。


お父様やお母様にこれから先会えなくなるかもしれないこと。

男爵領が帰る家ではなくなること。


それだけじゃない。


作法も考え方も何もかもが違う世界に1人で飛び込まなきゃいけなくなる。

それは自分が想像しているよりも、はるかに苦しくて大変なことで、帰りたくなっても後戻りなんかできない。逃げ出すことも。


両親を捨て、私の生まれ育ってきた環境を捨て、そこまで私はオスカーさんと共に未来を歩みたいと思うのか?


「私は…」


すぐに応えなんて出せなかった。

両親もそんな私にこれ以上問い詰めることはなかった。


無言で重い空気だった。


オスカーさんのことが好き。

隣に立ちたい、この人を支えたいとも思う。

そんな人に今まで出会ったことはなかったし、これから先もここまで想える人に出会えるとも思えない。


でも両親は、私を産み育ててくれた両親だ。

男爵領は暖かく迎えてくれる帰る場所だ。

どちらか、なんて選べない。


そんなことを考えているとコンコンと音がしてドアが開いた。


「お話途中にすみません。」

「…オスカーさん」

「っ貴方が!

…この度は娘を助けていただき本当にありがとうございました。」


両親は真っ先に深々と頭を下げた。

その姿を見ていたら無性に泣きたくなった。


こんなにも私を心配してくれる人達と、愛してくれる人達と離れなければならないのかと。


オスカーさんは何を言うわけでもなく両親に顔をあげさせた。

変に畏まるわけでも、王太子としての威厳を見せるような言い方をするわけでもなく。


そっと私の両親たちの肩に手を置いた。


「…私の父と母がトスカーナご夫妻とお話ししたいそうです。」

「陛下と王妃様が…?」

「ロベリアもね。

お時間をいただけますか?」

「「は、はい」」


お父様とお母様、それに私も初めて陛下や王妃様と話すのでそれはもうガチガチだった。

私のエスコートはオスカーさんが、その後ろに両親が続く。

長い王宮の廊下を歩いてる途中にオスカーさんが小さく私に耳打ちをした。


「ロベリアはお義父さん似なんだね」

「そう、ですね」

「素敵なご両親だ。」


あまりにも優しい声だった。

それが私を余計に混乱させた。


重厚感のある扉。

その横に見張の兵が2人。

中にも2人。

王族と直接話す時のマナーなど男爵家ではわかるはずもなくとりあえず頭を下げる。

下手な言葉は許しが出るまで出さない。

そんな私や両親の姿を見て陛下と王妃様がどんな顔をしていたのかは見えなかった。

見えていたのは絨毯の模様だけ。


「顔を上げて、どうぞおかけになって。」


王妃殿下に促されて本革のソファに腰を下ろす。

恐れ多くて両親は本当に先端に腰掛けるか腰掛けないかの程度だったと思う。


「この度はお時間をいただき、感謝する。」

「…恐れ入ります。

こちらこそお時間をいただきありがとうございます。」

「さて、早速本題だが…

この度の件色々と報告を受けている。」


陛下がちらりと横に視線を向けると書類を手に控えていた宰相様が一歩前に出た。


そして宰相様の口から、新聞では語られていない事件の概要、

なぜこのような事態になったのか、

エリアナ様やヴァイスベルグ侯爵家への末路。

それらの要点を両親へ説明された。

こうして聞くと実際とんでもないことだったのだなと改めて思う。


一通り話し終えたところで陛下が口を開いた。


「この場は非公式とする。

その上でまず私個人として謝罪がしたい。」

「え…」

「今回の事件は息子の甘さが招いたこと。

王家としてもエリアナ嬢の危険思想を見抜けなかったことの責任は重いと感じている。

結果としてロベリア嬢を巻き込んでしまった。」


申し訳ないと静かにオスカー様も陛下も王妃様も頭を下げるものだから私も両親も一瞬で頭が真っ白になった。

宰相様はこの場を見ないように静かに目を閉じていて関与せずを貫いている。


声をかけずにいたらそのまま下げ続けてしまいそうなそれに両親も私も本当に慌てた。

「顔を上げてください。」とか

「いや、謝るのはこちらの方で。」とか

とにかく必死だった。


時間にして数秒なのだろうが、王族の皆様が顔を上げてくれるまでの時間が永遠とも思えるほど長く感じた。


「その上で、ロベリアを次期王太子妃候補として迎え入れたいと思う。」

「え…」

「学園での立ち回りや誘拐時の対応。

息子に聞くところによると王宮文官試験の最難問である冷害対策への回答、隣国問題での辺境伯家救出の発案者でもあると。

男爵令嬢という立場でありながら素質は充分にあると考えた。」


学園での立ち回りや誘拐の対応はさておき、王宮文官試験の最難問って、何。

隣国問題の時にオスカーさんが疲れていたのは知ってるけど、辺境伯家の救出って、何。


両親も聞いてないぞと私を横目に見た。


いや、私も知らない。


オスカーさんの方へ視線を向けると1人とても晴れやかな表情をしていた。


犯人が一目でわかった。


「そこで、だ。」


陛下が再び宰相様に視線を向けると手元にあった資料を一枚めくり言葉を続けた。


「トスカーナ男爵令嬢をセレヴェイン公爵家への養子縁組手続きを行いたいと思います。」

「公爵家…」


男爵家の自分たちからすれば王家ももちろんだが公爵家も雲の上の存在だった。







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