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16話




令嬢達を完全に敵に回した私への嫌がらせは苛烈を極めた。


予想通り、ではあった。


陰口、無視、教科書や靴などの私物を廃棄。

水をかけたり、食事をばら撒いたり。

机に落書きしたり針を仕込んでいたり。

それこそありとあらゆる身体的、精神的な攻撃をされていたと思う。


「トスカーナ令嬢その机は…」

「朝来たらこんな有様だったので、私にはわかりかねます。」

「そう、ですか…。」


「トスカーナくん、何故びしょ濡れなんだい?」

「廊下を歩いていたらすれ違いざまにバケツを持ったご令嬢が転んでしまったみたいです。」

「そう、か…。」


無視や陰口ならまだしも見た目に完全に影響されていれば教師も理由を聞かざるを得ない。

授業に差し支えるからだ。

結局机は新品の備品に変えてもらったし、

濡れたままでは風邪をひくと保健室へ行く許可が出された。

私を笑う人もいれるけど、少しずつ同情する人も現れ始めた。


「流石に、やりすぎだよな?」

「もしかして、女性は結婚後にも気に食わないことがあるとこうなるのか?」

「怖すぎる。ちょっと婚約見直すかも。」

「俺も。」


そんな会話が廊下や食堂などでポツリポツリと聞こえてきていた。

女子生徒達のやることがあまりにも苛烈なので特に男子生徒達は遠目に見てかなりのショックを受けていたようだ。

中には婚約の見直しで破談になってしまった例も少なからずあるらしい。


「アンタのせいで私の縁談が台無しよ!」


そうやって廊下で声を大にして罵ってきた令嬢もいた。

でも、私は決してなにもしていない。

その令嬢のお相手の顔も名前も知らない。

勝手に私に攻撃をして、勝手に怖がられて、勝手に破談になっただけだ。


それが後のことなどなにも考えず、気に食わないと言う理由だけで攻撃した人の末路だった。

貴族らしいとは言えない無様な姿だった。


「さすが俺のロベリア…っく…ふふっ…」

「笑いすぎです。

感心している場合でもないです…。」


定期連絡用に用意されている空き教室に行くと、オスカーさんが涙を流すほど笑っていた。


こっちは毎日必死だと言うのに。


教科書を捨てられたり、机に落書きされていた時は学校に弁償求められたらどうしようと本気で慌てていたし、

バケツの水をかけられた時は寒かったし、

机の中の針はチクっと痛かったし、

靴がないまま帰宅するのは流石に困ったのに。


「あははっ」

「もう…」


本来私1人ならとっくに潰れてしまっていた。

こんなに強くもいられなかった。

でもこうしてオスカーさんが笑い飛ばしてくれるから、味方でいてくれるから、なんとか戦うことができているんだと思う。


「あー…笑った…っ…ふふっ…」

「まだ治ってないじゃないですか。」


私の一言がまたツボに入ってしまったのか、思い出し笑いを一度挟み、しばらくしてようやく本題に入ることができた。


「予想以上にロベリアがいい仕事をしてくれたおかげでエリアナも我慢の限界だろう。」

「…そう、ですか」

「多分そろそろ動き出すよ。」


その言葉の意味…

それは私は近々誘拐なり監禁なりをされるということだ。

オスカーさんから聞いたエリアナ様の話が本当なら、私はそのまま殺されるか、女子としての尊厳を散らされてから殺されるか。

どちらにしても穏やかじゃない未来がすぐそこで待ち受けているのだろう。


「…大丈夫。絶対護る。」

「…信じてます。」


強がってみせても手も体も震えていた。

もちろん、オスカーさんのことは信じている。

でもエリアナ様が一枚上手でオスカーさんの予想を上回る行動をとったら?

そんなボタンのかけ違いひとつで私は簡単に殺されてしまう。

そんな綱渡りをさせられて怖くないわけがなかった。

もしそうなったら2度とオスカーさんにもチョビにも会えなくなるんだから。


「…ごめん。」

「何度目ですか、その言葉…」

「何度謝っても、謝り足りない。

本当ならこんな危険な目に遭うことなんてなかったのに。」

「…そうですね。

就職を目指して静かに勉強に励んで、

息抜きにチョビと裏庭で遊んで、

そんな生活をしていたと思います。」

「……そうだろうな」

「でも、すごく寂しい生活だったと思います。」


気づけば私はオスカーさんの腕の中にいた。

暖かくて、力強くて、安心できる場所だった。


「…好きだよ、ロベリア」


そんな言葉に少しだけ泣きそうになる。

オスカーさんに出会って全てが変わった。

貴族社会なんて息苦しいし、大嫌いだったのに、この人のためならそれすら乗り越えて見せようと思えるくらいには。

初めてオスカーさんと会ったあの日の私はきっとこんなことになるなんて想像もしていなかったんだろうな。


「…私も、大好きです。」


そして、その日の夕方私は誘拐された。





__________



この状況で日が暮れて、人通りが少ない時間に出歩くほどバカではない。

授業が終わって帰り支度をして、さっさと寮へ戻ろうとしていた時。


夕方にもなってない、まだ明るい時間。


いつもなら帰り道を歩く生徒や街の方へ向かう生徒なんかで賑わう普通の道がやけに静かで、不気味だった。

自然と足が早足になったのに同じ速度で後ろから聞こえる複数の足音。

振り返っちゃダメだとわかるのに、私は振り返ってしまった。


瞬間口元でツンとした匂いがした。


口元に当てられてるものを咄嗟に外そうとしたけどびくともしない。

吸わないようにと息を止めてもだんだん呼吸が苦しくなって目の前が霞んでいく。


オスカーさん、助けて


その思いは声にならなくて。

そのまま視界がホワイトアウトした。




「〜〜?」

「…だろ?」


どれくらい意識を失っていたのか。

視界が白い。

何か布のようなものを巻かれている。

何も見えないのに先程の薬のせいかクラクラと脳が揺れてるみたいで天地がはっきりしない。

吐き気を堪えていると、だんだんと意識がはっきりして周りの声や雑音がクリアに聞こえるようになってきた。


『怖いと思うが、もし誘拐されてもそのまま静かにしているんだ。』


そんなオスカーさんの言葉を思い出す。

冷静に、冷静に、状況を把握しよう。

視界は塞がれている。口元も。

手や足もしっかり縛られていて動かすことは難しそうだ。

ガタガタと音を立てて揺れているから、おそらくは馬車で移動しているのだろう。


「エリアナお嬢様、お怒りだったよな」

「この女何したんだよ。」

「なんか、婚約者を略奪したんだってよ」

「マジか。

清楚そうな見た目してるくせにやるな

身体の方がよっぽどいいのか?」

「エリアナ様より?」

「バカ。それ言ったら俺らも殺されるぞ?」


男達がゲラゲラと下品な話をしている。

私が起きていることにはまだ気がついてないみたいだった。

下手に起きるよりオスカーさんの言っていた通りこのまま寝たふりをしていればとりあえず彼らの目的地には無事に着けるはず。


そう頭では理解していても視力を奪われると言うのは想像以上に恐ろしかった。

もしかしたらすぐ近くにもう1人会話をしていない仲間がいるかもしれない。

どこに向かっているのかもわからない。

この後何をされるのかもわからない。

音だけがやけに大きく聞こえてくる。


でも下手に動けば私が起きてることがバレてしまいそうで。


必死に息を殺して、身体の震えを抑え込んで


オスカーさんが絶対に助けに来てくれる。

その希望に縋り続けていた。






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