第20章 裂けた流れ④
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日が傾きかけた頃、旧都の外れの稜線がようやく見えた。
だが安堵はなかった。近づくほどに、空の色がおかしいのがはっきりわかる。煙ではない。雲でもない。もっと濁った、地の底から立ちのぼったものが空へ薄く広がっている。
馬はもう泡を噛み、呼気が荒かった。レオニス自身も鞍の上で意識を保つだけで精一杯だった。脇腹は走るたび鈍く痛み、額の傷も熱を持ち始めている。視界が揺れた。けれど止めなかった。
遅れれば、姫の命が危うい。
その確信だけで手綱を握る。
ただ、もう一度、セラフィナに会いたかった。
「セラフィナ様」
今度の声はほとんど息と同じだった。乞い願うような、すがるような思いの分だけ気がはやる。それに応じるように馬はなお前へ伸びた。腕輪の石がまた熱を増す。まるで、旧都の奥にいる誰かへ呼ばれるように。
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空を覆う薄暗い濁りの下で、旧都じゅうの悲鳴が波のように重なる。裂けた石畳の先、崩れかけた広間の方角で、何かがまた大きく軋んだ。地の底が裂け、世界そのものがきしむような音だった。
セラフィナは手袋の口をきつく引き上げた。
泣くことも、立ち止まることもできないまま、壊れかけた世界の方へ向かって歩く。
ここではない。
どこかへ行かなければならない。
けれど、その向かう先がわからない。
この広い空の下で、自分だけが道を失ってしまったようだった。
そして同じ空の下、レオニスは潰れかけた馬を前へ向けていた。
間に合わなければならない。
その願いだけが、裂けていく世界の中で、まだ途切れず残っていた。




