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第7話 その盲信をアリスは撃ち抜く

「チェシャ、武器ちょうだい!」


振り返りもせず叫ぶ。


猫が楽しそうに笑う。


「こんなのはどう?」


ぽん、と。


手の中に重み。


いや、重くない。


軽い。


猟銃が、二丁。


「……ハンマーじゃないの?」


「飽きると思って」


「でも銃なんてどう使えばいいのか……」


「大丈夫だよ、引き金引くだけで撃てるから」


アリスは少しだけ笑う。


「都合よくて助かる!」


引き金を引く。


パンッ!


乾いた音。


弾が、歪みの胴を撃ち抜く。


肉が裂ける。


赤い頭巾が揺れる。


「いけ──」


言い切る前に、


穴が、塞がる。


再生。


瞬時に。


「って、やっぱダメなんだ!」


すぐに距離を取る。


歪みが吠える。


「信じた」


「信じた」


足が地面を砕く。


突進。


「そうだよ」


肩にしがみついた猫が揺れる。


「僕たちの物語じゃないんだから」


「じゃあ──」


息を整える。


視線が、腹に向く。


「シンデレラの時みたいに」


「中をどうにかするしかない……!」


歪みが腕を振るう。


アリスは身を捻る。


紙一重。


懐に入る。


近い。


近すぎる。


匂い。


生臭い。


引き金。


連射。


パンッ パンッ パンッ!


腹に撃ち込む。


肉が裂ける。


内側が、見える。


「赤ずきん!」


一瞬だけ。


顔が、覗く。


「聞いて!」


「信じたから、食べられた」


機械のような声。


「悪いのは、騙した狼」


「違う!」


即座に否定。


「違う、あんたも悪い!」


歪みが暴れる。


腕が振り下ろされる。


アリスは後ろに跳ぶ。


床を滑る。


「不注意!」


「無防備!」


「疑うことをサボった!」


赤ずきんの目が揺れる。


「信じることがそんなに悪いの!?」


「良い悪いじゃない!」


踏み込む。


銃口を向ける。


「結果の話してるの!」


「信じた」


「だから食べられた」


「それを全部」


「相手のせいにしてるでしょ!」


沈黙。


一瞬。


「それ、選択じゃない」


引き金を引く。


パンッ!


「放棄だよ」


赤ずきんの瞳が、揺れる。


「だからあんたは」


少しだけ、声が落ちる。


「自分を救うために」


「自分で選べ」


「……自分で……」


歪みの中で、


声が変わる。


「私、が……」


ゆっくりと。


意識が、浮かび上がる。


「お婆さんは……」


息を飲む。


「お婆さんは、お婆さんじゃないです」


歪みが、止まる。


「あなたは」


震える声。


でも、逃げない。


「酷い狼さんです」


一歩。


内側から、踏み出す。


「お婆さんを……」


「返して!!」


崩壊。


赤い頭巾が裂ける。


狼の体が崩れる。


音を立てて、溶ける。


中から、


二つのものが落ちる。


赤ずきん。


そして。


“お婆さんだったもの”。


形は残っている。


だが、それだけ。


骨。


肉。


まだ消化されていないだけの塊。


「……おばあ、さん……」


赤ずきんが崩れる。


泣く。


声にならない声。


アリスは、それを見る。


ただ、見る。


「……だからって」


静かに言う。


「全部が綺麗になるわけじゃないからね」


猫が、肩で揺れる。


「抱きしめてあげたら?」


少しの間。


「可哀想とは思うけど」


目を逸らさないまま。


「今甘やかすのは、違うでしょ」


猫が笑う。


「相変わらず冷たいね」


「うるさい」


その時だった。


「……あ!」


明るい声。


振り向く。


赤い頭巾。


さっきと同じ少女。


何事もなかったみたいに立っている。


「青ずきんさん!こんにちは!」


アリスは少しだけ目を細める。


それでも、手を振る。


「……こんにちは」


「今日は何しに?」


「お婆さんのお墓参りに!」


一瞬の沈黙。


「……そっか」


赤ずきんは笑う。


本当に、普通に。


「それじゃ!行ってきます!」


「行ってらっしゃい、気をつけて」


赤ずきんは軽く手を振って、


森の奥へと走っていく。


その手さげのバスケット。


中には、


お菓子とぶどう酒。


そして。


拳銃。


森は静かだった。


近頃、


誰も赤ずきんに近寄らない。


ここ数日で、二人死んだ。


一人は、猟師。


「危ないから一緒に行こう」と言った。


もう一人は、母親。


口うるさく、何度も言い聞かせた。


「気をつけなさい」


「知らない人についていくな」


どちらも。


撃たれた。


赤ずきんは思った。


“また騙されるかもしれない”


“また食べられるかもしれない”


だから。


先に。


撃った。


それが、普通になった。


疑わしきは、罰する。


アリスは、その背中を見ていた。


「……極端」


猫が肩で笑う。


「アリスが変えたんだよ」


「選んだのはあの子でしょ」


すぐに返す。


「責任逃れだね」


「そっちこそ」


少しだけ視線を横に流す。


「あたしをここに連れてきてるのは、チェシャでしょ」


猫がくすっと笑う。


「堂々巡りだね」


「そうだね」


少しの間。


「結局さ」


アリスは呟く。


「全部、自分次第ってことでしょ」


森の奥。


赤い頭巾が、小さくなっていく。


止まらない。


振り返らない。


その背中は、


もう“誰かを信じる子供”じゃない。


アリスは、それを見送った。


何も言わずに。


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