第64話 その結末はふたりのまま
崩壊。
世界が、
形を保てない。
空が落ちる。
地面が消える。
色が混ざる。
意味が消える。
アリスは走る。
ただ、
前へ。
大剣を握る。
ラブへ。
一直線に。
ラブは動かない。
立っている。
崩れゆく世界の中で。
アリスが振りかぶる。
振り下ろす。
その瞬間。
ラブが動く。
受け止める。
剣ではなく。
アリスを。
抱きしめる。
止まる。
時間が。
アリスの目が揺れる。
「……ラブ」
小さく。
ラブも言う。
「アリスちゃん」
優しく。
そのまま。
「もういいよ」
小さく、
囁く。
衝突は、
消える。
光も。
亀裂も。
すべて。
ほどけるように。
消えていく。
歪みが、
消える。
ラブの光も。
アリスの亀裂も。
全部。
なくなる。
残るのは。
二人。
だけ。
そのまま。
落ちる。
崩壊した世界の、
果てへ。
目を開ける。
新崎有栖は、
目を開ける。
制服。
見慣れた服。
椅子。
机。
面会室。
目の前に。
少女。
白と黒の囚人服。
黒いツインテール。
染村愛。
静か。
不自然なくらい。
誰もいない。
見張りも。
音も。
二人だけ。
有栖は見つめる。
「……」
愛が先に言う。
「……アリスちゃん?」
有栖が答える。
「あなたが、ラブ……」
記憶が戻る。
夏。
警察。
教室。
ざわめき。
連れていかれる少女。
名前も知らなかった。
でも。
見ていた。
愛が笑う。
「やっぱり、有栖ちゃんだったんだ」
有栖が少しだけ首を傾げる。
「え?」
愛が続ける。
「あの時さ」
「警察に連れていかれる時ね」
「みんな野次馬してたじゃん?」
「そりゃ珍しいし、分かるけどさ」
少しだけ間。
「でも、有栖ちゃんだけ」
「2階の窓からチラッと見て」
「すぐ目逸らしたんだよね」
有栖の目が揺れる。
愛は笑う。
「なんかさ」
「私と似てるって思った」
有栖は少し考える。
「似てるかな」
愛は言う。
「興味無いフリ」
有栖が少し笑う。
「ああ、たしかに」
苦笑い。
「犯罪なんて起きるものだし」
「見たところで何もしないなら」
「表立って否定するのもね……」
愛は頷く。
「私はさ」
少しだけ、
視線を落とす。
「思うところがあっても」
「他人を肯定して、自分を肯定してた」
有栖は言う。
「私は……」
一瞬止まる。
「自分が、好きじゃないだけ」
静かに。
「誰かに認められるって思えなくて」
愛はあっさり言う。
「大変そ」
有栖が笑う。
「でしょ」
「捻くれてるの」
愛が頷く。
「うんうん」
「それもいいよ」
有栖が笑う。
「肯定するの?」
愛も笑う。
「自分の為にね」
有栖が少しだけ目を細める。
「じゃあ私は」
「私を否定し続けるね」
愛が笑う。
「捻くれ者だ」
有栖が返す。
「うるさい」
笑い声。
二人。
初めて、
自然に笑う。
光。
目を開ける。
森。
倒れている。
二人とも。
ぼろぼろ。
ゆっくりと起き上がる。
目が合う。
一瞬。
沈黙。
それから。
有栖が笑う。
「バカみたい」
愛も笑う。
「そうだね」
同じ顔。
同じ温度。
その先。
扉。
静かに、
そこにある。
愛が言う。
「行ってみる?」
有栖が頷く。
「うん、行こう」
二人で。
歩く。
並んで。
扉の前。
開く。
光。




