第61話 その許しをアリスは拒む
裁判。
続いている。
一人。
また一人。
証言台に立つ。
罪が読み上げられる。
「壊した罪」
「騙した罪」
「逃げた罪」
様々。
でも。
そのすべてに。
「無罪」
女王が言う。
軽く。
当然のように。
「いいよ」
「そうしたかったんでしょ?」
「ならいいじゃん!」
笑う。
優しく。
あたたかく。
それを聞くたびに、
会場がざわつく。
でも。
止まらない。
誰も止めない。
裁判は、
進む。
やがて。
「次」
白うさぎの声。
少し震えている。
「被告人、アリス」
扉が開く。
トランプ兵に押される。
前へ。
歩かされる。
証言台。
立つ。
静か。
アリスは顔を上げる。
玉座。
そこに。
ラブがいる。
目が合う。
ラブの表情が揺れる。
驚き。
わずかに。
「……アリスちゃん」
小さく。
アリスが言う。
「ラブ……」
間。
白うさぎが慌てて声を上げる。
「こ、この者は!」
「否定の罪!」
「否定により多数の物語を歪ませた罪である!」
声が響く。
「女王様!」
「判決を!」
ラブは動かない。
アリスを見ている。
ただ、
見ている。
「……アリスちゃん」
もう一度。
白うさぎが戸惑う。
「じょ、女王様……?」
ラブがはっとする。
「あ、ごめんごめん」
いつもの調子。
少しだけ、
笑う。
それから。
「……無罪だよ」
静かに言う。
優しく。
「否定したいものは」
「否定していいんだよ」
ざわめき。
広がる。
ラブは続ける。
「何も悪いことなんて――」
そのとき。
「それは、おかしいよ」
アリス。
はっきりと。
ラブの言葉を遮る。
ラブが目を見開く。
「……アリスちゃん?」
アリスは動かない。
視線を逸らさない。
「おかしいって言ったの」
静かに。
でも、
強く。
会場が揺れる。
ざわつく。
アリスは続ける。
「私はたしかに否定してる」
「思ったことを言ってる」
一拍。
「でも」
「それが無罪になるなら」
「この裁判は意味がない」
空気が止まる。
「罪があっても」
「全部許すなら」
「最初から裁く必要ないでしょ」
ラブの呼吸がわずかに揺れる。
アリスはさらに言う。
「私は」
「自分の選択に責任を持つ」
一歩、
踏み出す。
「間違ってるなら」
「間違ってるって言われたい」
「それを」
「なかったことにされる方が」
小さく息を吐く。
「よっぽど気持ち悪い」
静寂。
ラブが言う。
「……私は」
少しだけ、
迷いながら。
「肯定するって言ってるんだよ?」
「肯定されるの、嫌い?」
アリスは首を振る。
「嫌い、とかじゃないよ」
小さく。
「ラブに肯定されて」
「私は私を少し許せた」
ラブの目が揺れる。
「でも」
一歩、
踏み出す。
「ごめん」
静かに。
「肯定されたらされたで」
「私は止まる」
小さく笑う。
「それじゃダメなんだよ」
ラブはすぐに言う。
「ううん」
優しく。
「それも許すよ」
一切の迷いなく。
アリスは首を振る。
「私は……」
間。
「私を許さない」
静かに言う。
「私は」
「私を否定する」
静寂。
会場が、
止まる。
誰も動かない。




