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第59話 その会話は全て肯定される

森。


歪んだ道。


同じ場所を、


通っている気がする。


でも。


進んでいる。


アリスは歩く。


迷いなく。


その先。


開けた場所。


丸いテーブル。


不自然に置かれている。


椅子が並ぶ。


数は合っていない。


足りない。


余っている。


その周り。


人影。


帽子屋。


三月ウサギ。


眠りネズミ。


そして。


白うさぎ。


「遅刻する!遅刻する!」


焦っている。


走り回っている。


でも。


誰も見ていない。


帽子屋が言う。


「席がないね!」


三月ウサギが笑う。


「いいじゃないか!」


「立てばいい!」


眠りネズミが寝言のように言う。


「うん、それでいい」


誰も困らない。


誰も止めない。


誰も、


“おかしい”と言わない。


アリスは立ち止まる。


「……何これ」


小さく呟く。


帽子屋が気づく。


「ああ!」


「新しいお客さんだ!」


手を叩く。


「歓迎しよう!」


三月ウサギも言う。


「歓迎!歓迎!」


「座る場所はないけどね!」


笑う。


アリスは動かない。


白うさぎが横を通る。


「遅刻する!」


「裁判が!」


言葉が漏れる。


でも。


誰も拾わない。


帽子屋がカップを持ち上げる。


中身をこぼす。


テーブルに広がる。


「おっと、こぼした」


三月ウサギが頷く。


「いいじゃないか!」


「濡れるのも楽しい!」


眠りネズミが言う。


「うん……いいね……」


アリスの目が細くなる。


「それ、飲み物でしょ」


帽子屋が笑う。


「そうとも言う!」


「でも違うとも言える!」


三月ウサギが続ける。


「どっちでもいい!」


「どっちも正しい!」


沈黙。


アリスは動かない。


チェシャ猫が肩で笑う。


「いいねぇ」


「それっぽい」


でも。


少しだけ、


間。


「……いや」


小さく呟く。


アリスが視線を向ける。


「何?」


チェシャ猫は首を傾げる。


「なんか違うな」


珍しく。


曖昧に。


帽子屋が言う。


「質問だ!」


「カラスはなぜ書き物机に似ている?」


三月ウサギが笑う。


「答えは?」


帽子屋が言う。


「ない!」


「でもいい!」


三人で笑う。


楽しそうに。


意味はない。


白うさぎがまた通る。


「遅刻する!」


「急がなきゃ!」


誰も止めない。


誰も聞かない。


同じ会話が、


繰り返される。


少しずつズレながら。


アリスはそれを見ている。


「……会話になってない」


一拍。


「否定が存在してない」


静かに言う。


「だから」


「何も進まない」


帽子屋が頷く。


「それもいい!」


三月ウサギも言う。


「いいね!」


眠りネズミも呟く。


「いいよ……」


即座に。


全てが肯定される。


アリスの表情が消える。


「……そう」


一言。


チェシャ猫が笑う。


でも。


目が細い。


「これが“不思議の国”」


一拍。


「……だったはずなんだけどね」


小さく。


誰にも聞こえないように。


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