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第55話 その幸福にラブは触れられない

衣装部屋。


静か。


ベッド。


ラブは一人、


仰向けに沈んでいる。


天井を見る。


ぼんやりと。


「……はぁ」


ため息。


珍しく、


深い。


手を持ち上げる。


何もない。


カードも、


ない。


ゆっくりと下ろす。


「幸せの、はず」


ぽつりと。


自分に言い聞かせるみたいに。


幸福の王子。


ツバメ。


助けた。


救った。


優しかった。


「……なのに」


目を閉じる。


思い出す。


冷たさ。


動かない体。


捨てられる音。


「なんでだろ」


小さく呟く。


「いいこと、したのに」


「ちゃんと」


答えはない。


静かなまま。


ラブは横を向く。


枕に顔を埋める。


「……アリスちゃんなら」


少しだけ、


声が弱くなる。


「違ったのかな……」


思い出す。


否定する言葉。


迷いのない目。


ラブは目を開ける。


少しだけ、


笑う。


「会いたいなー」


軽く言う。


でも、


どこか本気で。


そのとき。


空間が揺れる。


静かに。


扉が現れる。


何もない場所に。


音もなく。


ラブは体を起こす。


少しだけ見つめる。


「……いるかな」


小さく言う。


「アリスちゃん」


立ち上がる。


迷いはない。


扉へ向かう。


手をかける。


一瞬。


ほんの一瞬だけ、


止まる。


それから。


開く。


光。


森。


でも。


森じゃない。


木が並んでいる。


同じ間隔。


同じ形。


同じ高さ。


同じ揺れ。


風が吹く。


葉が揺れる。


同じ音。


繰り返す。


ラブは一歩踏み出す。


足音。


振り返る。


同じ景色。


ほんの少しだけ、ズレている。


また一歩。


同じ場所。


「……あれ?」


首を傾げる。


少し歩く。


でも。


変わらない。


同じ道。


同じ木。


同じ風。


「迷路?」


小さく呟く。


そのとき。


声。


「ねえ、パパ」


子供の声。


ラブが顔を上げる。


少し先。


開けた場所。


二人。


少年。


木でできた体。


動いている。


ピノキオ。


その前に、


男。


ゼペット。


優しい顔。


少し疲れている。


ピノキオが言う。


「ねえ、パパ」


無邪気な声。


ゼペットが顔を上げる。


「なんだい」


優しい。


ピノキオは少し考えて、


それから言う。


「今日ね、いっぱい頑張ったよ」


少しだけ、間がある。


ゼペットは微笑む。


「そうかい」


少し遅れて。


「偉いね」


ラブの目が動く。


ピノキオは続ける。


「だからね」


少しだけ近づく。


「明日も一緒にいていい?」


ゼペットの手が止まる。


一瞬。


ほんの一瞬だけ。


それから、


すぐに笑う。


「もちろんだよ」


「お前は、ここにいればいい」


ピノキオが嬉しそうに笑う。


「やった!」


「じゃあ、ずっと一緒だね!」


ゼペットは頷く。


「……ああ」


少しだけ、


力の抜けた声。


でも。


その手は、


ピノキオの頭を撫でる。


ゆっくりと。


大事に。


ラブはそれを見る。


目が少しだけ揺れる。


一歩、


近づく。


「……そう、だよね」


小さく言う。


ゼペットを見る。


「寂しかったんだよね、お父さんは」


ぽつりと落とす。


そのとき。


音。


カチャ、


カチャ。


規則的な音。


森の奥。


現れる。


赤。


トランプ兵。


整列。


同じ動き。


同じ顔。


一斉に口を開く。


「嘘、確認」


「嘘、記録」


「発言、照合」


ピノキオの前に立つ。


一人が問う。


「今日、何をした」


ピノキオは笑う。


「いっぱい頑張ったよ」


間。


トランプ兵が頷く。


「承認」


何もない紙に、


何かを書く。


「嘘、成立」


「問題なし」


ラブの目が揺れる。


「……え?」


小さく漏れる。


トランプ兵はそのまま去る。


同じ動きで。


同じ音で。


消える。


残る。


同じ会話。


「いい子だね」


「うん!」


また。


「いい子だね」


「うん!」


ズレて、重なる。


ラブは立ち尽くす。


何も言えない。


ただ、


見ている。


その世界を。


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