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第53話 その静寂をアリスは壊す

静かだ。


城の中。


足音だけが響く。


一定のリズム。


狂いがない。


――狂わなさすぎる。


アリスは歩く。


白雪姫のいる部屋へ。


迷いはない。


扉の前で止まる。


一瞬。


躊躇は、


ない。


開ける。


白雪姫。


床を磨いている。


同じ動き。


同じ速さ。


変わらない。


女王はいない。


部屋には、


二人だけ。


「……何してるの」


アリスが言う。


白雪姫は手を止める。


ゆっくりと顔を上げる。


笑う。


綺麗な笑顔。


「見ての通り」


「お掃除」


軽く答える。


アリスは近づく。


足音がやけに響く。


「楽しい?」


唐突に聞く。


白雪姫は少し考える。


「うん」


頷く。


「悪くないよ」


穏やかに言う。


アリスの目が細まる。


「……そう」


一拍。


「何も思わないの?」


白雪姫は首を傾げる。


「何を?」


アリスは言う。


「女王」


空気がわずかに揺れる。


白雪姫はすぐに笑う。


「優しい人だよ」


迷いがない。


「ちゃんと気にかけてくれるし」


アリスは即座に返す。


「嘘でしょ」


白雪姫の動きが止まる。


ほんの少しだけ。


「……どうして?」


穏やかなまま聞く。


アリスは言う。


「嫉妬してた」


はっきりと。


「あなたのこと」


白雪姫の目が揺れる。


一瞬。


でも、


すぐに戻る。


「……そうかもね」


あっさり認める。


アリスは止まらない。


「少しじゃない」


一歩近づく。


「もっと思ってた」


「嫌いだった」


「邪魔だった」


白雪姫の呼吸が、


わずかに乱れる。


「……」


アリスは続ける。


「消したかったでしょ」


沈黙。


短い。


でも確かに、


何かが膨らむ。


白雪姫の視線が落ちる。


「……うん」


小さく。


「そう思ってたと思う」


認める。


アリスはさらに言う。


「それなのに」


「何もなかったことにしてる」


「気持ち悪いよ」


はっきり言う。


白雪姫は顔を上げる。


「でも」


静かに言う。


「それでもいいって言ったの」


アリスの動きが止まる。


ほんの一瞬。


「……は?」


低く漏れる。


白雪姫は続ける。


「嫉妬も」


「嫌いも」


「全部あっていいって」


「なかったことにしなくていいって」


穏やかな声。


優しい。


でも、


どこか歪んでいる。


アリスの目が冷える。


「いいわけないでしょ」


即答。


白雪姫は首を傾げる。


「どうして?」


アリスは言う。


「それは消えない」


「なかったことにもできない」


一歩踏み込む。


「見て見ぬふりしてるだけでしょ」


白雪姫は黙る。


少しだけ考える。


それから。


「……ぶつかって」


「どうなるの?」


静かに聞く。


アリスは答える。


「壊れるよ」


「ちゃんと」


即答。


白雪姫は、


少しだけ笑う。


「じゃあ」


一歩近づく。


距離が縮まる。


「壊さない方がいいじゃない」


アリスの目が揺れる。


ほんのわずか。


でも、


すぐに消える。


「それじゃ」


「何も残らない」


白雪姫は首を振る。


「残るよ」


「優しさ」


静かに言う。


アリスは否定する。


「それは嘘」


一歩、さらに近づく。


「押し込めてるだけ」


「見ないふりしてるだけ」


白雪姫の呼吸が、


少しだけ乱れる。


空気が重くなる。


「……あなた」


白雪姫が言う。


「否定するのね」


アリスは迷わない。


「当然でしょ」


即答。


白雪姫は少し黙る。


それから。


「じゃあ」


顔を上げる。


笑う。


変わらない笑顔。


でも、


目が違う。


「あなたは」


「誰も救わないのね」


アリスの動きが止まる。


一瞬。


本当に一瞬。


沈黙。


短い。


でも、


確かに刺さる。


チェシャ猫が笑う。


「いいねぇ」


「選択だ」


アリスは目を閉じる。


そして、


開く。


迷いはない。


「救う必要ある?」


「それ」


静かに言う。


白雪姫は何も言わない。


ただ、


見ている。


その瞬間。


空気が歪む。


床が揺れる。


光がぶれる。


静かな世界に、


亀裂が入る。


音もなく、


広がる。


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