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第50話 その物語は既に壊れている

光。


扉をくぐる。


足元。


感触。


固い。


石。


城。


見覚えがある。


「……ここ」


アリスは周囲を見る。


広い廊下。


高い天井。


静か。


――静かすぎる。


「ラブ?」


振り返る。


いない。


白うさぎもいない。


チェシャ猫だけが、


肩の上にいる。


「……はぐれた?」


アリスが言う。


チェシャ猫は笑う。


「さあね」


軽い。


「でもまあ」


一拍。


「よくあることじゃない?」


アリスは眉を寄せる。


「……今までなかったけど」


小さく言う。


返事はない。


代わりに。


くすくすと笑う音。


「いいねぇ」


「寄ってきた」


アリスは無視する。


歩き出す。


靴音が響く。


やけに、


よく響く。


一歩。


もう一歩。


――遅れて、


音が返る。


アリスの足が止まる。


「……なにこれ」


小さく呟く。


でも、


それ以上は追わない。


廊下を抜ける。


扉。


開ける。


部屋。


光が差し込む。


窓。


その前に、


少女。


白雪姫。


床を磨いている。


静かに。


丁寧に。


手を動かしている。


「……」


アリスは止まる。


既視感。


でも。


違う。


動きが、


綺麗すぎる。


無駄がない。


乱れがない。


――人間っぽくない。


「無理しなくていいのよ」


声。


振り向く。


女王。


そこにいる。


白雪姫のすぐそばに。


「疲れたら休みなさい」


優しい声。


穏やかな表情。


白雪姫は小さく頷く。


「はい」


素直に。


従順に。


でも。


アリスの目が細まる。


「……何これ」


小さく呟く。


優しい。


正しい。


――なのに、


気持ち悪い。


空気が、


噛み合っていない。


女王が去る。


静かに。


足音が、


消える前に、


消える。


白雪姫はその場に残る。


手を止める。


少しだけ、


息を吐く。


それから。


ゆっくり、


顔を上げる。


笑う。


綺麗な笑顔。


完璧な。


――一切崩れない。


「また来たの?」


アリスの動きが止まる。


一瞬。


本当に一瞬。


呼吸が乱れる。


「……は?」


小さく漏れる。


白雪姫は首を傾げる。


「違う?」


にこりと笑う。


「気のせいかな」


軽く言う。


でも。


目は、


動いていない。


瞬きが、


ない。


アリスは黙る。


視線を逸らさない。


「……覚えてるの?」


低く聞く。


白雪姫は少し考える。


一拍。


――間が長い。


「さあ?」


曖昧に答える。


でも。


その声は、


さっきと同じ高さ。


同じ速さ。


同じ音。


「でも」


一歩、近づく。


足音が、


遅れて二回鳴る。


「あなたのことは」


「最初から知ってた気がする」


距離が近い。


アリスの眉がわずかに動く。


チェシャ猫が笑う。


「寄ってきた」


「僕のいた物語に」


アリスは、


何も言わない。


ただ、


白雪姫を見る。


理解する。


これは。


記憶じゃない。


再現でもない。


――混ざっている。


この物語は、


もう。


前と同じじゃない。


風が吹く。


カーテンが揺れる。


同じ動きを、


二回繰り返す。


静かな部屋。


でも。


どこか、


歪んでいる。


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