第49話 その充足をアリスは信じない
城。
巨大な門。
高い壁。
空を覆うように、
そびえ立つ。
ラブが見上げる。
「おっきー!」
楽しそうな声。
かかしが呟く。
「ここが……オズの都……」
ブリキの男、
ライオンも、
緊張した様子で立っている。
扉が開く。
重い音。
中へ。
玉座の間。
暗い。
煙。
低い声が響く。
「よく来た……」
巨大な顔。
宙に浮かぶ。
目が光る。
「願いを持つ者たちよ」
ライオンが震える。
かかしも固まる。
ブリキの男は、
じっと見ている。
ラブは、
一歩前に出る。
「ねえねえ!」
手を振る。
「この人たちの願い、叶えてあげてよ!」
気軽に言う。
巨大な顔が揺れる。
「……よかろう」
声が響く。
「その願い、叶えてやる」
その瞬間。
アリスが目を細める。
何かに気づく。
視線を動かす。
玉座の裏。
わずかな隙間。
「……そこ」
小さく言う。
全員の視線が動く。
ラブが首を傾げる。
「え?」
アリスは歩く。
止まらない。
そのまま、
玉座の裏へ。
布を引く。
ばさり、と音。
そこにいた。
一人の男。
装置に囲まれている。
煙の装置。
声の拡張器。
顔を青くする。
「……あ」
静寂。
ラブが笑う。
「えー!」
「なにそれ!」
「おもしろーい!」
男は慌てる。
「いや、その……」
しどろもどろ。
アリスは冷めた目で見る。
「……やっぱり」
興味なさげに言う。
男は咳払いをする。
「だ、だが!」
「願いは叶えてやる!」
必死に取り繕う。
かかしたちが顔を上げる。
「ほ、本当か!?」
男は頷く。
「もちろんだ!」
装置を漁る。
何かを取り出す。
かかしへ。
「これは“知恵の証”だ!」
巻物。
それらしく見える。
かかしが受け取る。
「……これで」
小さく呟く。
一拍。
目を細める。
「……いや」
首を傾げる。
「前から、考えてた気もする」
少しだけ笑う。
ブリキの男へ。
「これは“心の証”!」
ハート型の時計。
ブリキの胸に当てる。
コツ、と音。
ブリキの男は、
胸に手を当てる。
「……さっきも」
静かに言う。
「嬉しいと思った」
一拍。
「なら……」
少しだけ頷く。
「最初からあったのかもしれない」
ライオンへ。
「そしてこれは“勇気の証”だ!」
メダル。
首にかける。
ライオンはそれを握る。
震える手。
でも、
視線は前に向く。
「……怖い」
正直に言う。
一拍。
「でも」
少しだけ、
前に出る。
「さっきも動けた」
小さく息を吐く。
「なら……」
目を閉じて、
開く。
「これでもいい」
三人はそれぞれ、
自分の中を見る。
静かに。
ラブが嬉しそうに笑う。
「ほらね!」
「いいじゃん!」
「ちゃんと叶ってる!」
明るく言う。
アリスは三人を見る。
少しだけ黙る。
それから。
「それ、叶ってないよ」
静かに言う。
空気が止まる。
三人が振り向く。
アリスは続ける。
「元からあったものを」
一拍。
「それっぽく渡されただけ」
淡々と。
ラブが少しだけ目を細める。
アリスはさらに言う。
「変わってないでしょ」
短く。
「何も」
沈黙。
でも。
かかしが首を振る。
「……ううん」
「それでもいい」
ブリキの男も言う。
「理由ができた」
胸に手を当てる。
ライオンも頷く。
「……持ってるって思える」
少しだけ笑う。
「それで、進める」
ラブが頷く。
「でしょ?」
少しだけ、
柔らかく。
「ちゃんと満たされてるよ」
アリスはそれを見る。
少しだけ、
目を細める。
一拍。
「……それで満足できるなら」
小さく言う。
「それでいいんじゃない」
それ以上は、
何も言わない。
風が吹く。
城の外。
黄色い道。
三人はそれぞれの方向へ歩き出す。
迷いながらも、
どこか軽く。
ラブが手を振る。
「がんばってねー!」
楽しそうに。
アリスは動かない。
その背中を見る。
「……薄い」
小さく呟く。
ラブが振り返る。
「え?」
アリスは目を閉じて、
開く。
「……なんでもない」
短く言う。
そのとき。
扉が現れる。
何もない空間に。
ラブが笑う。
「次いこっか!」
アリスも歩き出す。
並んで。
光の中へ。




