第46話 その欠落をラブは満たす
風。
広い空。
どこまでも続く、
黄色いレンガの道。
ラブが先に歩いている。
「わー!」
くるりと回る。
スカートがふわりと揺れる。
「なにここ、めっちゃ綺麗!」
太陽の光を受けて、
金髪がきらきらと輝く。
アリスは少し遅れて歩く。
「……また変なとこ」
周囲を見渡す。
人工的な道。
不自然なほど整っている。
「ねね、この道どこ行くんだろ!」
ラブが振り返る。
アリスは肩をすくめる。
「さあ」
一拍。
「どうせ“正解の場所”でしょ」
興味なさげに言う。
白うさぎが耳を立てる。
「お、おそらく……!」
少し慌てた声。
「“オズの都”かと……!」
ラブが目を輝かせる。
「オズ?」
チェシャ猫が現れる。
いつの間にか、
アリスの肩の上。
にぃ、と笑う。
「願いを叶えてくれる場所だよ」
軽く言う。
ラブはすぐに頷く。
「へぇ〜!」
「いいじゃん!」
楽しそうに前を向く。
アリスはその背中を見る。
少しだけ目を細める。
「……叶えてもらう必要ある?」
静かな声。
ラブは振り返る。
「え?」
首を傾げる。
アリスは続ける。
「足りないなら、自分でどうにかすればいいでしょ」
当たり前みたいに言う。
ラブは少し考えて、
それから笑う。
「でもさー」
軽い声。
「足りないって思ってるなら、満たしてあげてもよくない?」
アリスは答えない。
視線を外す。
そのとき。
遠くから声。
「た、助けてー!」
高い声。
揺れる。
ラブが反応する。
「あ!」
すぐに走り出す。
「誰かいる!」
白うさぎが慌てて追う。
「ま、待ってくださいぃ!」
アリスは一瞬だけ止まる。
ため息。
「……はぁ」
それでも、
歩き出す。
声の方へ。
道の脇。
畑。
そこに、
立っている。
棒に縛られた、
人の形。
かかし。
腕が広げられたまま、
固定されている。
「た、助けて!」
顔がこちらを向く。
ラブが近づく。
「大丈夫!?」
かかしが必死に頷く。
「動けないんだ!」
アリスが少し遅れて来る。
腕を組む。
状況を見る。
ラブはすぐに縄に手をかける。
「今外すねー!」
ぐい、と引く。
結び目が緩む。
かかしの身体が、
前に倒れる。
「うわっ!」
ラブが支える。
「危ない危ない」
かかしは少しふらつきながら立つ。
「ありがとう!」
深く頭を下げる。
ラブはにこっと笑う。
「どういたしまして!」
かかしは頭をかく。
「いやあ、困ってたんだ」
「僕、頭がなくてさ」
アリスの目が少し動く。
「頭?」
かかしは頷く。
「脳みそがないんだ」
「だから、考えるのが苦手で……」
ラブが即答する。
「え?」
首を傾げる。
「でもちゃんと喋ってるじゃん?」
かかしが戸惑う。
「え、あ……それは……」
ラブは笑う。
「助けてって言えたし!」
「状況もわかってたよね?」
「困ってることも説明できたし」
「全然大丈夫じゃない?」
明るく言う。
かかしが少し黙る。
「そ、そうかな……」
ラブは大きく頷く。
「そうだよ!」
「ちゃんと考えてるって!」
嬉しそうに言う。
アリスが口を開く。
「それで満足なの?」
空気が少し変わる。
かかしが振り向く。
アリスは続ける。
「喋れるから大丈夫?」
「困ってるって言えたから十分?」
静かな声。
「それ、“考えてる”って言える?」
かかしが言葉に詰まる。
ラブが横から口を挟む。
「いいじゃん!」
軽く言う。
「今できてることがあるならさー」
アリスは視線だけ向ける。
「……それでいいならね」
短く言う。
かかしは二人を交互に見る。
迷う。
それから、
小さく言う。
「でも……」
「やっぱり欲しいんだ」
「脳みそ」
ラブが笑う。
「そっか!」
「じゃあ取りに行こ!」
かかしが顔を上げる。
「え?」
ラブは指をさす。
道の先。
「オズのところでしょ?」
にこっと笑う。
「叶えてもらお!」
一拍。
「今のままでも、行きたいなら行っていいよ」
かかしの表情が少し明るくなる。
「……うん!」
頷く。
アリスはその様子を見る。
少しだけ、
目を細める。
何も言わない。
チェシャ猫が肩の上で笑う。
「いい流れだねえ」
アリスは小さく息を吐く。
「……そう」
風が吹く。
黄色い道が、
先へと続いている。




