第44話 その感情を愛は受け入れる
夏。
気持ちのいい青空。
雲は少ない。
太陽は、
元気に輝いている。
私の名前は、
染村愛。
平凡な高校2年生。
「うーん、いい気持ち」
息を吸う。
熱い空気。
でも、
嫌じゃない。
体育の授業。
グラウンドを走る。
汗が流れる。
背中に張り付く。
でも。
(こんな青空の下で走れるなんて、最高じゃない?)
足を止めない。
前を向く。
その横で。
「熱中症なるってえ」
「汗でベトベトー」
「早く休憩したーい」
不満が飛ぶ。
愛は少しだけ笑う。
(うんうん、それも分かる)
(その後のシャワー、気持ちいいもんね)
どっちも本当。
どっちも気持ちいい。
だから、
どっちもいい。
⸻
シャワー室。
水音。
蒸気。
愛は髪を拭きながら、
更衣室に戻る。
着替え。
そのとき。
「ない、ない!」
焦った声。
振り向く。
白濱雪。
いじめられっ子。
制服がない。
愛は近づく。
「どしたのー?」
軽く聞く。
雪は必死に周りを見る。
「私の着替えがないの……」
手が震えている。
愛は少しだけ首を傾げる。
「次、全校集会だよ?」
「大丈夫そー?」
雪は頷けない。
「探さなきゃ……」
そのとき。
扉が開く。
笑い声。
いつものグループ。
「あれ雪、まだ着替えてなかったのー?」
「次集会じゃん、着替えなきゃヤバくない?」
わざとらしい声。
雪が振り向く。
「あ、そういえばさ」
一人が言う。
「雪の制服、見たよ?」
雪の顔が強張る。
「え……?」
「女子トイレに捨ててあったけど」
「いらなかったのー?」
笑い声。
空気が軽い。
雪の声が震える。
「なんで……」
愛はその様子を見る。
少しだけ考えて、
口を開く。
「ふーん」
「だから持ってってたんだね!」
空気が止まる。
一瞬。
グループの一人が睨む。
「は?」
低い声。
「言うなよ」
愛はすぐに笑う。
「ごめんごめん!」
手をひらひらさせる。
でも、
続ける。
「たしかにさ」
「人のもの捨てるのって楽しいよね!」
「わかるわかる」
軽い声。
空気が変わる。
「……え?」
引く音。
雪も、
グループも、
言葉を失う。
雪が小さく言う。
「何言ってるの……?」
愛はすぐに頷く。
「雪も悲しいよね!」
「それもわかる!」
「……は?」
混乱。
愛は気にしない。
にこっと笑う。
「どっちも良いと思う」
はっきり言う。
雪が首を振る。
「良いわけ……ないでしょ……」
声が震える。
愛は不思議そうにする。
「どうして?」
本気で分からない顔。
雪は言葉に詰まる。
「どうしてって……」
愛は続ける。
「やりたいって思った気持ちも」
「嫌だって思った気持ちも」
一拍。
「どっちも、本当でしょ?」
静かに言う。
空気が止まる。
誰も答えない。
愛は少しだけ首を傾げる。
「だったらさ」
「どっちも、あっていいじゃん」
笑う。
軽く。
当たり前みたいに。
雪の顔が歪む。
「き……気持ち悪い……」
ぽつりと落ちる。
グループの一人が言う。
「愛ってさ……」
少し間。
「変わってるよね」
愛はすぐに返す。
「そ?」
「普通でしょ♪」
軽く笑う。
そのまま、
くるりと背を向ける。
歩き出す。
止まらない。
後ろの空気は、
ぐちゃぐちゃのまま。
でも、
振り返らない。
(どっちも本当なのに)
(どっちかにしなきゃいけない理由って、ある?)
少しだけ考える。
でも、
すぐにやめる。
「ま、いっか」
鼻歌まじりに、
教室へ向かう。




