第42話 その日常を有栖は壊さない
夏。
セミの鳴き声。
うるさい。
止まらない。
耳にまとわりつく。
何もしてなくても、
疲れる。
出したくなくても、
ため息が出る。
「……はぁ」
私の名前は、
新崎有栖。
平凡な、
高校2年生。
「暑……」
下敷きで仰ぐ。
ぬるい風。
意味はない。
クーラーの無い教室。
空気が重い。
窓の外を見る。
グラウンド。
他のクラスが体育。
走っている。
汗を流している。
「……あっちの方がマシかも」
小さく呟く。
すぐに思い直す。
「いや、ないか」
チャイムが鳴る。
授業が終わる。
同時に、
空気が崩れる。
「あっつー」
「なんでウチらのクラスエアコン無いの」
「貧乏学校かよ」
不満が溢れる。
分かってることを、
わざわざ口に出すなよ。
そう思う。
でも。
さっき自分も言ってた。
だから、
何も言わない。
「ねー麗羅、暑いよねー?」
声が飛ぶ。
麗羅が振り向く。
「う、うん。暑いね」
彼女は、
麗羅。
クラスメイト。
次の瞬間。
「じゃあ脱げば?」
笑い声。
軽いノリ。
冗談みたいに。
でも。
誰も止めない。
一人が腕を掴む。
「ちょ、やめて……」
麗羅の声が揺れる。
「暑いんだろ!脱げって!」
笑いが広がる。
囲む。
逃げ場はない。
制服が引っ張られる。
ボタンが弾ける。
「いやっ!」
抵抗。
でも、
弱い。
数が違う。
布が裂ける。
肌が露出する。
「ほら、涼しくなるって」
誰かが言う。
笑い声。
止まらない。
麗羅が泣く。
「やめて……お願い……」
誰も聞かない。
シャツが脱がされる。
スカートが引き下ろされる。
下着だけになる。
それでも、
終わらない。
「まだ暑そうじゃん?」
ハサミ。
布を切る音。
びり、と。
下着が裂ける。
「ほら、涼しそうでしょ?」
笑い声。
これは、
虐めだ。
分かってる。
ちゃんと分かってる。
有栖は、
それを見ている。
動かない。
止めない。
視線を逸らさない。
ただ、
見ている。
一瞬。
麗羅と目が合う。
助けを求める目。
揺れる。
その中に、
少しだけ、
期待が混ざる。
有栖は、
何も言わない。
何もしない。
視線を外す。
(……可哀想)
そう思う。
でも同時に。
(普通でしょ)
そうも思う。
よくあること。
珍しくもない。
だから。
動かない。
正義感なんて、
ない。
あっても、
意味がない。
(どうせ)
一拍。
(助けたって)
少しだけ間。
(私が終わるだけ)
小さく息を吐く。
誰にも聞こえない。
(頑張ったって)
(意味なんてないから)
セミの声が、
うるさい。
何も変わらないまま、
時間だけが過ぎていく。




