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第37話 その幻想をアリスは拒む

衣装部屋。


ラブ「ありがと!」


アリスは軽く微笑む。


紅茶をラブに渡す。


自分のカップにも注ぐ。


湯気。


香り。


一口、啜る。


ラブがふと口を開く。


「アリスちゃんってさ、私と会ったことある?」


アリスが目を上げる。


「?どういうこと?」


ラブは少し首を傾げる。


「なんかさ」


「物語で会う前から知ってるような……」


言いながら、自分でも曖昧そうに笑う。


アリスは少しだけ考える。


「どうだろう……」


「私、あんまり友達とかいなかったから」


ラブはうーん、と唸る。


「友達じゃなくて、なんだろう……」


「なんだったかなぁ」


言葉を探す。


そのとき。


「アリス」


チェシャ猫の声。


振り向く。


指の先。


扉。


「扉が出たよ」


「行くかい?」


アリスは頷く。


「うん」


ラブを見る。


ラブはベッドに倒れ込むようにして手を振る。


「私はちょっと休憩してから行くよー」


気の抜けた声。


アリスは小さく笑う。


「分かった、後でね」


軽く手を振る。


扉に手をかける。


開く。


光。


夜。


雪。


静かな街。


白く、


冷たい。


アリスは一歩踏み出す。


吐く息が白い。


「寒……」


肩をすくめる。


厚手の防寒着。


それでも、


寒い。


チェシャ猫がフードの中に潜り込む。


「流石に寒いね」


「これはちょっと堪える」


アリスは何も言わない。


ただ、周囲を見る。


人。


通り過ぎる。


足早に。


視線も向けない。


その中に。


小さな影。


少女。


マッチ売り。


薄い服。


震えている。


それでも、


声を出す。


「マッチ……いかがですか……」


弱い声。


誰にも届かない。


一人の男が通り過ぎる。


ぶつかる。


少女がよろめく。


手から、


マッチが落ちる。


箱が開く。


白い雪の上に、


散らばる。


男は振り向かない。


そのまま去る。


少女は慌てて拾う。


震える手。


息が荒い。


アリスはそれを見ている。


動かない。


「……売れるわけない」


小さく呟く。


誰にも聞こえない声。


少女はマッチを握る。


しばらく迷って。


一本、取り出す。


擦る。


火がつく。


小さな炎。


その光の中。


暖炉。


暖かい部屋。


火の前で、


座る自分。


少女の顔が緩む。


笑う。


ほっとしたように。


安らいだように。


アリスはそれを見る。


目を細める。


小さく息を吐く。


「……それで満足するの?」


誰にも届かない声。


炎が揺れる。


少女は答えない。


ただ、


そこにいる。


アリスは続ける。


「現実は変わってない」


一歩。


踏み出す。


「寒いまま」


「一人のまま」


視線は外さない。


「それなのに」


少しだけ間。


「そこに逃げるの?」


炎が揺らぐ。


幻想がかすかに歪む。


チェシャ猫が笑う。


「厳しいね」


アリスは即答する。


「当然」


「意味がないから」


もう一歩。


雪を踏む。


「それで死ぬなら」


静かに。


はっきりと。


「ただの現実逃避でしょ」


炎が揺れる。


暖炉が、


少しだけ歪む。


少女の笑顔が、


かすかに揺らぐ。


アリスは止まらない。


光の中へ、


踏み込む。


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