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第36話 その帰路を彼女は選び取る

夜。


静けさが戻る。


さっきまでの歪みは、


もうない。


風が通る。


木々が揺れる。


子供たちは、


立ち尽くしていた。


何が起きたのか、


理解しきれていない顔。


その中で。


ウェンディが、


一歩前に出る。


はっきりとした足取り。


迷いは、もうない。


「帰りましょう」


静かな声。


でも、


よく通る。


子供たちがざわつく。


「え?」


「帰るの?」


「まだ遊べるよ?」


ウェンディは振り向く。


優しく。


でも、


譲らない目で。


「楽しいわ」


小さく頷く。


「ここは、とても」


空を見る。


星。


「でも」


視線を戻す。


「それとこれとは、別よ」


子供たちが黙る。


「遊ぶことが楽しいのは分かる」


「夢を見るのも、素敵だと思う」


一歩。


「でも」


「帰ることとは、別の話」


沈黙。


その言葉は、


逃げ場を残さない。


ピーターパンが降りてくる。


軽やかに。


「なんで?」


不思議そうに言う。


「ここ、楽しいよ?」


「ずっと遊べる」


「帰る意味ある?」


本気で分かっていない顔。


ウェンディは、


少しだけ目を細める。


「あるわ」


はっきりと。


「ここじゃ、夢は叶わないから」


一瞬。


ピーターの表情が止まる。


「……夢?」


ウェンディは頷く。


「ええ」


「ここは楽しいだけの場所」


「変わらない場所」


一拍。


「でも、私は」


言葉を選ぶ。


「変わりたいの」


静かに言い切る。


子供たちが揺れる。


互いに顔を見る。


「……帰る」


一人が言う。


「ぼくも」


「私も」


少しずつ、


声が重なる。


ピーターが一歩下がる。


「……なんで」


小さく。


ウェンディは振り返らない。


「行きましょう」


そのまま歩き出す。


子供たちも続く。


迷いながら。


それでも。


ついていく。


空へ。


飛ぶ。


夜へ戻るように。


ピーターは、


その場に残る。


手を伸ばしかけて、


止める。


何も言わない。


ただ、


見ているだけ。


ラブがそれを見上げる。


「あーあ、楽しかったのに」


少しだけ残念そうに笑う。


「でも」


「大人になりたいって人もいるよね」


アリスは黙っていた。


それから、


小さく言う。


「なりたい、じゃなくて」


一拍。


「なるものだよ」


ラブが振り向く。


少しだけ考えて、


それから笑う。


「たしかに!」


「そういう考えもありかもね!」


軽く。


受け入れる。


でも、


どこか他人事みたいに。


アリスは何も言わない。


ただ、


夜空を見ている。


さっきまでの場所。


楽しかった場所。


でも、


もう戻らない場所。


そのとき。


扉が現れる。


何もない空間に。


静かに。


ラブが振り向く。


「さ、帰ろっか」


アリスは頷く。


二人で歩く。


並んで。


扉へ。


開く。


光。


夜が、


閉じる。


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