第32話 その理解を物語は愛と呼ぶ
城。
階段。
壊れた扉。
荒れた廊下。
野獣が走る。
重い足音。
息が荒い。
そのまま、
階段へ。
止まる。
上。
ベルがいる。
こちらを見ている。
静かに。
一瞬。
互いに動かない。
「……来なくていい」
野獣が言う。
低く。
少しだけ掠れている。
「晩餐も」
「話も」
「全部」
「必要ない」
ベルは少しだけ首を傾げる。
「来たかったの」
沈黙。
野獣の目が揺れる。
「……そうか」
それだけ。
ベルは階段を降りる。
一歩。
また一歩。
少しだけ慎重に。
でも、
止まらない。
野獣も動かない。
ただ、見ている。
距離が縮まる。
「……怒らないのね」
ベルが言う。
野獣は視線を逸らす。
「怒る資格がない」
少しだけ間。
「来ないのも自由だ」
「来るのも自由だ」
ぎこちない言い方。
覚えた言葉を、
なぞるみたいに。
ベルは少し驚く。
「変わったのね」
野獣は答えない。
少しだけ間。
「……気づいただけだ」
小さく。
「押し付けていただけだ」
沈黙。
ベルはそれを聞く。
否定しない。
「どうして」
迷いながら。
「そんな風になったの?」
野獣が顔を上げる。
しばらく、見つめる。
そして。
「呪いだ」
淡々と。
「傲慢だった」
「人を見下していた」
「だからこうなった」
間。
「当然だ」
それだけ。
ベルは目を細める。
「……寂しかった?」
野獣は答えない。
でも、
少しだけ息が乱れる。
否定は、しない。
沈黙。
ベルが言う。
「怖いわ」
正直に。
「でも」
少しだけ前を見る。
「話は、聞ける」
野獣の目が揺れる。
わずかに。
「……そうか」
それだけ。
空気が変わる。
静かに。
二人は並ぶ。
同じ段に。
触れない。
でも、
離れていない。
そのとき。
光。
野獣の身体がほどける。
形が変わる。
静かに。
人へ。
王子へ。
ベルは驚く。
でも、
逃げない。
「……あなた」
王子は立っている。
戸惑いながら。
「……ああ」
短く答える。
沈黙。
距離は、
そのまま。
でも。
少しだけ、
近い。
成立している。
無理なく。
静かに。
それは確かに、
間違っていない結末だった。
誰も傷つかず、
誰も無理をせず、
ただ、
理解して、
受け入れただけ。
だからこそ。
少しだけ。
浅い。
「アリスちゃーん!」
声。
振り向く。
ラブが手を振っている。
「ラブ……?」
ラブは嬉しそうに駆け寄る。
「アリスちゃんも来てたんだねー!」
「うん」
少しだけ笑う。
ラブが首を傾げる。
「あれ?じゃあ偶然共同作業しちゃった?」
「そうみたい」
アリスは小さく笑う。
ラブがぱっと顔を明るくする。
「なら、ハッピーになって良かったね!」
「うん」
少しだけ間。
「整ってるけどね」
ラブは笑う。
「それがいいんじゃん」
アリスは視線を戻す。
王子とベルを見る。
「……衝突がない」
小さく言う。
「削れてない」
「だから軽い」
ラブはくすっと笑う。
「軽いの、ダメ?」
アリスは少しだけ考える。
「ダメじゃない」
一拍。
「でも、私は好きじゃない」
ラブはすぐに頷く。
「うん、それでいいよ」
あっさり。
「私は好きだけどね!」
沈黙。
アリスは何も言わない。
ただ、
その光景を見ている。
静かに。




