第29話 その結末をアリスは受け入れる
森。
静か。
ヘンゼルとグレーテルは、
顔を見合わせる。
足元。
宝石。
まだ、ある。
光っている。
グレーテルが手を伸ばす。
その手を、
ヘンゼルが止める。
「……帰ろう」
小さく言う。
グレーテルは少しだけ迷う。
宝石を見る。
それから。
「……うん」
手を引く。
二人は歩き出す。
森の中。
白い石。
道標。
一つずつ、
辿る。
やがて、
それは途切れる。
足元。
何もない。
「……」
立ち止まる。
空を見上げる。
白い小鳥は、
来ない。
沈黙。
歩く。
迷う。
疲れる。
それでも、
進む。
時間が過ぎる。
ようやく、
家に辿り着く。
扉。
開く。
中。
静か。
継母は、
いない。
病で、
亡くなっていた。
父がいる。
二人を見る。
「……!」
駆け寄る。
抱きしめる。
強く。
泣いている。
何度も、
名前を呼ぶ。
「ヘンゼル……」
「グレーテル……」
その声は、
震えている。
二人は、
何も言わない。
ただ、
そこにいる。
その後も。
飢饉は続いた。
食べるものは、
少ない。
日々は、
変わらない。
父も。
ヘンゼルも。
グレーテルも。
長くは、
生きなかった。
静かに。
終わる。
衣装部屋。
アリスは椅子に座っている。
頬杖をつく。
紅茶を啜る。
静か。
チェシャ猫が言う。
「かわいそうに」
少しだけ間。
「ヘンゼルとグレーテルは」
「死んじゃったみたい」
アリスはカップを傾けたまま、
答える。
「……うん」
小さく。
「かわいそうだね」
少しだけ間が空く。
それから。
一口。
紅茶を飲む。
「でも」
カップを戻す。
「それが普通」
視線は動かない。
「正しい死でしょ」
沈黙。
チェシャ猫が、
にぃ、と笑う。
「歪んでるねえ」
アリスは鼻で笑う。
「どっちが」
静か。
何もない部屋に、
その言葉だけが残る。




