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第27話 その幸福をアリスは拒む

森の奥。


甘い匂い。


家。


壁は菓子。


窓は飴。


屋根は砂糖。


ヘンゼルとグレーテルが立っている。


空腹のまま。


手を伸ばす。


「少しだけなら……」


グレーテルが言う。


ヘンゼルが頷く。


かじる。


崩れる。


中。


女。


魔女。


その後は、早い。


閉じ込められる。


太らされる。


火。


叫び。


押す。


落ちる。


焼ける。


終わる。


静寂。


アリスはそれを見ていた。


少し離れた場所で。


「……」


何も言わない。


チェシャ猫が言う。


「止めないんだね」


アリスは答える。


「生きるためでしょ」


「同じだから」


それだけ。


煙が消える。


中。


ヘンゼルが出てくる。


グレーテルの手を引く。


「大丈夫?」


「うん……」


助け出す。


そのとき。


光。


床の奥。


宝石。


金。


無数に。


ヘンゼルの目が止まる。


グレーテルも。


「……すごい」


近づく。


手を伸ばす。


拾う。


光が、強くなる。


目が輝く。


そのとき。


「それはおかしいよ」


静かな声。


二人が振り向く。


アリス。


立っている。


ヘンゼルが言う。


「あなたは?」


アリスは答えない。


ただ、見る。


「その宝石は」


「あなた達のものじゃない」


グレーテルが言葉を詰まらせる。


「それは……」


アリスが続ける。


「今、何をしようとしてるの?」


一歩、近づく。


「それを持ち帰って」


「皆に返す?」


間。


「違うでしょ」


空気が止まる。


ヘンゼルが歯を食いしばる。


「……違うよ」


低く言う。


「僕らは、生きるためにここまで来たんだ」


一歩、前に出る。


「捨てられて」


「飢えて」


「死にかけて」


声が震える。


でも止まらない。


「やっと手に入ったんだ」


宝石を握る。


「これくらい」


「いいだろ……!」


グレーテルも言う。


「みんなの分なんて、持って帰れないよ……!」


「でもこれがあれば」


「私たち、生きられる……!」


沈黙。


アリスは動かない。


「……そうだね」


小さく言う。


二人の目が揺れる。


一瞬、希望が差す。


でも。


「だからこそ」


一歩、踏み込む。


「それは“選択”でしょ」


静かに言い切る。


「他の誰かを切り捨てて」


「自分たちだけ生きるっていう」


ヘンゼルの顔が歪む。


「……違う」


「違う!」


「僕らはただ──!」


アリスが遮る。


「正当化してるだけ」


空気が軋む。


「仕方ないって言葉で」


「全部、正しく見せてるだけ」


グレーテルの手が震える。


「……だって」


「怖かったの……」


小さな声。


「死ぬのが……」


アリスの目がわずかに揺れる。


ほんの一瞬。


でも。


戻る。


「うん」


認める。


「怖いよね」


一拍。


「だから選んだんでしょ」


「それ」


宝石を指す。


沈黙。


「私は」


静かに言う。


「それを否定する」


その瞬間。


光が歪む。


宝石が、


黒く濁る。


ヘンゼルとグレーテルの足元から、


何かが落ちる。


影。


重いもの。


“歪み”。


二人の表情が、


引き剥がされるように崩れる。


「……違う」


ヘンゼルが呟く。


「僕らは……」


言葉が続かない。


「……幸せに」


グレーテルの声も、


途切れる。


影が広がる。


足元から、


身体へ。


侵食する。


「違う……」


「違う……!」


声が重なる。


でも。


止まらない。


形が崩れる。


二人の輪郭が歪む。


重なる。


混ざる。


一つになる。


巨大な影。


“兄妹”。


いや。


何か。


それが、


ゆっくりと顔を上げる。


光る。


宝石を、


抱えたまま。


アリスはそれを見ている。


「……ほらね」


さっきより、


少しだけ低い声。


チェシャ猫が笑う。


「やりすぎじゃない?」


アリスは答える。


「違うでしょ」


少しだけ間。


「選んだ結果だよ」


影が動く。


森が歪む。


光が揺れる。


アリスは背を向ける。


振り返らない。


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