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第15話 その努力をアリスは肯定する

扉を開く。


城の中。


静かな廊下。


足音が一つ。


アリスは歩く。


「どこ行くの」


肩の上で猫が揺れる。


「さっきの女王」


「へえ」


猫が笑う。


「気になる?」


「別に」


少しだけ間。


「確認するだけ」


部屋の前で足を止める。


扉の向こう。


気配がある。


ノックはしない。


そのまま開ける。


部屋。


鏡が並んでいる。


机の上に道具。


香油。


ブラシ。


布。


女王が座っている。


鏡を見ている。


アリスには気づかない。


ゆっくりと髪を梳かしている。


何度も。


何度も。


止めない。


乱れを整える。


細かく。


丁寧に。


少しでも崩れたら、


また最初からやり直す。


アリスは黙って見る。


猫が小さく笑う。


「怖い?」


「普通」


女王の手が止まる。


鏡の中の自分を見る。


目の下に触れる。


指でなぞる。


ほんのわずかな影。


「……まだ」


小さく呟く。


布を取る。


擦る。


消すように。


何度も。


何度も。


強く。


「まだ足りない」


立ち上がる。


別の道具を手に取る。


粉。


香り。


重ねる。


塗る。


隠す。


作る。


「もっと」


「もっと」


鏡に近づく。


顔を寄せる。


「私は」


「私は……」


息が荒い。


それでも手は止まらない。


「一番でなければ」


小さく、言い切る。


「意味がない」


部屋の空気が、張りつめる。


それでも女王はやめない。


整える。


作る。


維持する。


崩れないように。


崩れないように。


繰り返す。


アリスは目を細める。


「……必死だね」


猫が言う。


「無駄かもしれないのに?」


アリスは少しだけ間を置く。


「それでもやってる」


視線は女王から外さない。


「だったら」


「無駄って決めつける方がおかしい」


猫が笑う。


「へえ」


女王は気づかない。


ただ繰り返している。


整える。


作る。


維持する。


崩れないように。


崩れないように。


アリスは小さく息を吐く。


「……あっちは」


「何もしてない」


白雪姫の顔が浮かぶ。


祈るだけ。


笑うだけ。


それで選ばれる。


「こっちは」


「やってる」


視線を戻す。


女王を見る。


「ちゃんと」


猫が首を傾げる。


「じゃあ、どっちが正しい?」


アリスは即答しない。


少しだけ考える。


それから。


「……こっち」


小さく言う。


「少なくとも」


「自分で選んでる」


女王が鏡に手をつく。


息を整える。


その目は、


まだ諦めていない。


アリスは背を向ける。


「行こ」


猫が肩で揺れる。


「もういいの?」


「十分」


衣装部屋。


最初の場所。


ドレスが並んでいる。


静か。


アリスは真ん中で止まる。


「……で」


猫が笑う。


「どうする?」


アリスは少しだけ考える。


「簡単でしょ」


短く言う。


「間違ってる方を否定する」


猫が目を細める。


「どっちが間違ってるの?」


アリスは答える。


「何もしてないのに」


「選ばれる方」


少しだけ間。


「そんなの」


「認める理由ないでしょ」


静寂。


猫が、ゆっくり笑う。


「いいね」


「いつも通りだ」


アリスは扉を見る。


「次で終わらせる」


小さく呟く。


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