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第14話 その視線をアリスは見誤る

森。


城から少し離れた場所。


木々が深い。


湿った空気。


足音が、二つ。


前を歩くのは、狩人。


後ろに白雪姫。


「……この辺りで、少し休みましょう」


白雪姫は頷く。


「はい」


切り株に腰を下ろす。


狩人は黙っている。


手が震えている。


腰のナイフに触れる。


抜く。


鈍く光る。


白雪姫は、それを見る。


逃げない。


ただ見ている。


「……すまない」


声が掠れる。


「命令なんだ」


一歩、近づく。


ナイフに力が入る。


白雪姫は少しだけ首を傾げた。


「そうなんですね」


穏やかな声。


「……怖くないのか」


少しだけ考える。


それから笑う。


「怖いですよ」


綺麗な笑顔。


「でも」


立ち上がる。


距離を詰める。


「あなた、優しいから」


ナイフに指を触れる。


「できないですよね」


沈黙。


呼吸が乱れる。


手が震える。


「……なんで、そんなことが言える」


白雪姫は目を細める。


「だって」


「あなた、私を見てるもの」


少しだけ間。


「ちゃんと」


「“可哀想だ”って」


ナイフが落ちる。


膝が崩れる。


「できない……」


「俺には……無理だ……」


白雪姫はそれを見る。


一瞬だけ。


目の色が変わる。


ほんの一瞬。


「よかった」


すぐに戻る。


「ありがとうございます」


軽く頭を下げる。


「じゃあ、私」


背を向ける。


「行きますね」


森の奥へ歩く。


木の陰。


少し離れた場所。


アリスが見ている。


「……ほらね」


「やっぱりできない」


そのまま背を向ける。


去ろうとする。


「ねえ」


足が止まる。


振り返る。


白雪姫が、そこにいた。


さっきまで遠くにいたはずなのに。


距離が、おかしい。


詰めた気配がない。


アリスは動かない。


白雪姫を見る。


「あなた」


笑う。


「さっきから、見てるよね?」


風が止まる。


アリスは答えない。


白雪姫を見る。


笑顔は同じ。


綺麗で、


何もないみたいな顔。


でも。


目だけが違う。


「どうだった?」


「物語通りで、安心した?」


アリスの眉がわずかに動く。


「……チェシャ」


肩の上に、猫。


「どういうこと」


「なにがだい?」


「ただの会話じゃない」


白雪姫から目を逸らさない。


「探ってる」


猫が白雪姫を見る。


少しだけ笑う。


「うーん……」


すぐには答えない。


アリスは小さく息を吐く。


おかしい。


白雪姫は知らないはずだ。


ただそこにいた誰か。


それだけのはず。


なのに。


最初から、


“そこにいるもの”として見ている。


白雪姫が一歩近づく。


「ねえ」


「あなたは誰?」


アリスは少しだけ黙る。


「……アリス」


「旅人」


白雪姫は頷く。


「旅人」


そのまま言葉をなぞる。


「あなたも私を殺しに来たの?」


「違う」


「今は別に」


白雪姫は少しだけ笑う。


「そう」


「それじゃあ、邪魔しないでね?」


一歩、横を通る。


すれ違う。


その瞬間。


ほんの一瞬だけ。


アリスを“見下ろした”。


「私の物語を」


そのまま歩いていく。


振り返らない。


迷わない。


森の奥へ。


アリスは動かない。


その背中を見る。


知らないはずなのに。


あの目は。


ただの他人に向ける目じゃない。


「……何なの」


小さく呟く。


猫が笑う。


「何者だろうね」


「知らないならそう言って」


「知らないさ」


「でも」


少しだけ間。


「面白いだろう?」


アリスは答えない。


視線だけが残る。


白雪姫の消えた先に。


「……なんなの」


もう一度言う。


さっきより、少しだけ低い声で。

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